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 『IT産業崩壊の危機』。筆者が日経BP社主任編集委員時代に日経コンピュータに掲載した連載をまとめた本書を発行してから、10年近くが経った。富士通やNECなど大手ITベンダーを頂点とする多重構造が崩れることを指摘し、受託開発会社らにビジネスモデルの転換を急げと説いたつもりだった。

 だが、IT産業の構造は変わらない。上梓した2007年に比べて、大手ITベンダーの業績は落ち込んでいるものの、淘汰された有力IT企業は1社もない。

 下請け企業にも、大きな変化はみられない。大手ITベンダーに依存するビジネスを可能な限り続けたい経営者は少なくない。クラウドやAI、IoTなど先端技術を駆使する新しいビジネスに挑戦するリスクもとりたくない。

 両者とも伝統的なビジネスモデルを守れると信じているように思える。

 富士通が11月下旬に発表したAIプラットフォームからも、これがみてとれる。「活用する技術が異なり、提供するサービスも異なる」というが、顧客企業にコンサルティングからシステム開発、導入、運用までをトータルで支援するアプローチは20年前と同じ。APIを公開する相手は、グループ会社と協力会社などのパートナー企業だけで、オープンなエコシステムを築くつもりもなさそうに思える。

 米グーグルなどのAIプラットフォームと戦えるのだろうか。そもそも競合と思っていないのかもしれない。

 伝統的な仕組みを守りたいのは、目先の利益を優先することにもある。取り巻く環境変化を見て見ぬふりをし、「変革は自社のビジネスに影響しない」と決断を先送りする。そんな経営者に参謀はいない。決断力や判断力も乏しい。なので、10年前の著書で指摘した欧米ITベンダーの販売代理店化が、いまだに止まらない。マイクロプロセッサからOS、データベースなどのミドルウエア、クラウドへと広がる一方だ。

 このままでは、AIやIoTも欧米ITベンダーのプラットフォームやソフトを中核に扱うことになってしまう。知財にも影響する。

“欧米ファースト”でよいのか

 「別に問題はない。海外の素晴らしいソフトやサービスを使えばいい」という業界関係者もいる。しかし“欧米ファースト”が進めば、日本のユーザーの要望は確実に後回しになり、新しい技術やサービスの活用が遅れる。欧米のやり方を採り入れざるをえなくなるかもしれない。

 さらに、日本への新製品投入が遅くなる恐れもある。発売が欧米より10年近く遅れた例もすでにある。価格設定も変わるだろう。そもそも、IT産業は輸入販売と請負のシステム構築・運用で、どれだけの人数が食べていけるのだろう。

 「針路IT」の連載は今回で終わる。大手ITベンダーの課題を指摘する意味が薄れたように思う。

 だが、彼らが市場や活用をけん引する力を失っても、心配する必要はない。次世代をリードする新興勢力が生まれている。

 中小製造業のデジタル化を支えるプラットフォームを開発するカブク、深層学習プラットフォームのオープン化などAI活用に取り組むPreferred Networks、生体認証エンジンを手がけるLiquid、車両を遠隔地から制御するIoTデバイスとIoTプラットフォームを提供するGlobal Mobility Service、などだ。

 クラウドなど先端ITを組み合わせたアプリを開発するITベンチャーも、どんどん登場している。彼らが必ず新しい時代をリードすると信じている。