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写真1●「ビッグデータ・ベースボール」(KADOKAWA刊、トラヴィス・ソーチック著、桑田 健訳)の表紙。副題は「20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法」と長い。
写真1●「ビッグデータ・ベースボール」(KADOKAWA刊、トラヴィス・ソーチック著、桑田 健訳)の表紙。副題は「20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法」と長い。
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 2012年10月、メジャーリーグのピッツバーグ・パイレーツのゼネラルマネージャー(GM)と監督は、『野球界においてこれまでで最も型破りで、体系的で、独創的な戦術の採用に合意した』――。

 2016年3月に日本で刊行された「ビッグデータ・ベースボール」(写真1、本文中『』内は同書からの引用)は、パイレーツがデータを駆使した戦術を導入し、21年ぶりに勝ち越しを果たす過程を追ったドキュメンタリーである。

 本書は表向きは、パイレーツの2013年前後の戦いぶりについて書かれた野球の専門書だ。しかし絶えず競争に晒されている組織が、データ活用によってどうやって組織を変え、どうやってライバルを出し抜き、どうやって成果を出したかについて書かれたビジネス書と考えると、さらに面白く読めてくる。

マネー・ゲームの考え方をスポーツの世界に

 メジャーリーグとデータ活用については、もはやこの分野の“古典”で、ブラッド・ピット主演の映画にまでなった「マネー・ボール」がおなじみだろう(写真2)。年俸総額がニューヨーク・ヤンキースの3分の1以下だったオークランド・アスレチックスが「出塁率」をはじめとする、これまで見向きもされなかったデータに注目してチームを編成し、2002年シーズンにリーグ最高勝率を挙げる話だ。アスレチックスのGMビリー・ビーンが切り開いた「セイバーメトリクス」(統計的な手法に基づく野球の分析)の衝撃を描いたこの書籍は、野球に限らず様々なスポーツの現場にデータ活用を促したターニングポイントとなっている。

写真2●「マネー・ボール〔完全版〕」(早川書房刊、マイケル・ルイス著、中山 宥訳)の表紙。2002年のオークランド・アスレチックスの躍進を追った、野球への統計データ活用の“古典”ともいえる。
写真2●「マネー・ボール〔完全版〕」(早川書房刊、マイケル・ルイス著、中山 宥訳)の表紙。2002年のオークランド・アスレチックスの躍進を追った、野球への統計データ活用の“古典”ともいえる。
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 マネー・ボールはそのタイトルのとおり、成果が出る方法にいち早くたどり着いたものが巨大な富を得られるという、マネー・ゲームの考え方をスポーツの世界に持ち込んだ。実際、その後は多くの分析技術者たちがこの分野に着目し、新たなデータの発掘と斬新な分析結果の導出を競い合うことになった。

 マネー・ボールには、特異な技能に長けた選手が実名で出てくる。例えばコロラド・ロッキーズをクビになりかけたスコット・ハッテバーグという選手。アスレチックスは捕手としての限界を迎えたハッテバーグの出塁率を評価し、フリーエージェントで獲得したあと一塁手にコンバート。期待したとおりの成果を引き出している。