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戸籍の対応はアイデンティティーとのせめぎ合いに

 戸籍でのマイナンバー活用も、具体的な検討が進んでいるが、厄介な課題も見えてきた。

 戸籍証明書は、旅券発給事務手続き、年金・児童扶養手当などの社会保障手続き、相続税申告の手続きなどで提出を求められる。国籍・本籍、婚姻・親子などの親族関係を証明するには、住民基本台帳ではなく、戸籍をたどる必要がある。この戸籍をマイナンバーと対応付けて情報連携を可能にすれば、手続きの際に戸籍証明書の取得・提出を不要にすることができる。

 戸籍でのマイナンバーの活用については、法務省の研究会が2017年4月に「中間取りまとめ」を行い、システム実装方針などが具体化しつつある。戸籍は住民基本台帳と同様に市区町村が管理者であり、国の新規システムの整備および市町村の既存システムの改修にかかる総額は、数百億円規模になる可能性がある。

 法務省の「戸籍制度に関する研究会」の戸籍システム検討ワーキンググループの中間取りまとめでは、法務省が管理する「戸籍副本管理システム」から親族的身分関係情報を作成して「戸籍情報連携システム」に格納し、中間サーバーを介して情報提供ネットワークシステムにつなぎ込む形態が有力としている。副本管理システムは、東日本大震災の大津波で沿岸市町村の庁舎にあった戸籍正本データが被災したことを受け、法務省が全国2カ所にバックアップセンターとして設けた設備である。

 各市町村が運用している戸籍情報システムや正本データは、担当するITベンダーによって文字コードやデータフォーマットが異なることなどから国がシステムを一元化するのは困難と評価。これまで通り市町村が運用する形にするが、ベンダー別のクラウド化により全体のシステム経費を圧縮することを提案している。

 戸籍情報にマイナンバーをひも付ける方法としては、戸籍の附票と住民基本台帳の間で変更を通知し合う仕組みがあることから、住所地市区町村の住民基本台帳システムから、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)を介して、本籍地市区町村の戸籍情報システムにマイナンバーを送ってひも付ける処理フローを想定している。

 ただ、戸籍へのマイナンバーのひも付けには難関が立ちはだかる。市区町村ごとに異なっている外字約102万文字のコードや字形の統一である。情報連携を実現するには、各個人の戸籍情報に親子関係のリンク情報を追加する必要がある。そのためには個人の戸籍情報を名寄せしなければならないが、文字のコードや字形が異なったままでは名寄せができない。

 ところが、この字形の統一は一筋縄ではいきそうにない。戸籍に記載された氏名の字形に愛着を持つ人から反発を受ける恐れがあるからである。「アイデンティティーや文化」と「行政事務効率や社会コスト」という次元の異なる価値観をぶつけ合っても、落としどころは見えてきそうにない。法務省の中間取りまとめも、字形に制限を加える案と加えない案の長所・短所を示すにとどまっている。議論が迷路に入り込むことがないよう、政府は細心の注意を払って取り組みを進める必要があるだろう。