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 ある決済端末業の経営者は「日本の店舗は、ポイントを含め顧客を増やす何らかの策とセットにしない限り、新たな決済手段を導入してくれない」と語る。クレジットカードであれ電子マネーであれ、高い加盟店手数料やカードリーダーの導入費を店舗が払う以上、その手段が顧客を呼び寄せてくれる確信がない限り、導入は決断できない。

 だが現在、個人消費におけるカードの利用率は、欧米諸国の30~50%に対し、日本は12~14%と低いとされる。カード決済で高い手数料を払わずとも、日本人は現金でモノを買ってくれる。この状況が続く限り、店舗はクレジットカード決済がベースであるApple Payの導入に消極的なままだろう。

 もう一点、Apple Pay特有の事情もある。Apple Payは、カード番号をワンタイム(1回限り利用)トークンで隠蔽する、いわば顧客を匿名化する仕組みだ。だが日本では、大手流通業などを中心に、クレジットカード番号を顧客IDに流用している企業がいまだに多い。店舗にとっては、カード番号漏洩を防げるセキュリティ上の利点はあるものの、顧客データの収集という面ではうれしくないかもしれない。

おサイフケータイがあぶり出す、日本のモバイルNFCのニーズ

 もう一つの壁は、既に日本では、Apple Payと類似したサービス「おサイフケータイ」が10年前から始まっている点だ。

 Apple Payとおサイフケータイでは、同じNFC(近接型無線通信)規格でも、通信方式が異なる――この話は、既に様々な記事が取り上げており、ご存じの読者も多いだろう。具体的には、iPhone 6は欧米で普及する「Type A/B」に対応するとみられるのに対し、日本のおサイフケータイはソニーが開発した「FeliCa」を基本としている。両者に互換性はない。

 だが、論点はそこだけではない。もう一点、ここで議論したいのは、おサイフケータイを通じて明らかになった、日本人のモバイルNFCへのニーズである。

 やや余談になるが、FeliCaの開発から規格間競争、おサイフケータイに至るまでの歴史的経緯を、簡単におさらいしておこう。

 ソニーが開発した非接触ICカード技術「FeliCa」と、Apple Payが採用する「Type A/B」は、長きにわたってライバルの関係にあった。

 FeliCaが最初に実用化されたのは1997年、日本ではなく香港の交通機関向けである。1995年に行われた入札では、FeliCaと、オーストリアMikronが開発したICカードが一騎打ちになった。結果、高コストながらも通信速度などの機能で勝っていたFeliCaに軍配が上がった。

 だがその後、欧州をはじめとする世界の市場で普及したのは、低コストで勝るMikronだった。1998年に蘭フィリップスがMikronを買収。この技術が後に、ISO/IEC 14443の国際標準規格「Type A」となる。