PR

本人確認はホットなテーマ

 実は、今回筆者が苦しんだ“本人確認”というプロセス(転送不要郵便も含まれる)は、主に金融サービスにおけるペインポイント(痛点)として、改善の議論が進んでいるホットなテーマの一つだ。

 昨今は、一人ひとりが様々なIDを持っている。マイナンバーカードや免許証、健康保険証といったリアルなものだけでなく、ECサイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、インターネットバンキングなどのアカウントといったオンライン上のものも含まれる。あらゆるサービスで通用するデジタルのIDが存在すれば、個人の利便性は格段に高まるはずだ。

 例えば、シンガポールでは政府主導で「Myinfo」という個人情報管理サービスを実現している。氏名や性別、国民ID、さらには収入や水道料金の請求番号といった情報まで任意で登録できる。元々は行政サービスでの活用が中心だったが、最近は銀行口座の開設などにも使えるようになっているという。

 インドの国民IDネットワーク「Aadhaar」も注目だ。顔写真や指紋、虹彩といった生体情報を登録しており、こちらも銀行口座の開設などに使える。ポーランドでは、国民識別番号カードをモバイル端末に格納する施策が進んでいるという。各国で共通するのは、必ずしもリアルなカードにこだわっていない点だ。

 別の動きとして、金融機関によるKYC(Know Your Customer)情報の共有を目指す取り組みも、日本を含めた各国で進んでいる。KYCとは、銀行などが口座開設などの取引を始める際、顧客の本人確認などを実施する作業のことだ。現在は原則として各金融機関ごとに必要で、複数の銀行で口座開設する際に利用者は、同じような手続きを繰り返さなければならない。

 一方で転送不要郵便の議論は、日本特有のものだ。マネーロンダリングなどの防止を目的とした犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則で、本人確認業務の一環として定められている。ただし、ネット銀行やネット証券、FinTech企業などからは改善を望む声が強い。サービスをオンラインで完結できず顧客利便性を損なうからだ。郵送コストなどもバカにならない。既に、政府も巻き込んだ議論が始まっている。

 IDやKYCを巡る議論は慎重に実施すべきだ。利便性を追求するあまり、悪用や犯罪利用が横行すれば本末転倒である。ただし、既存の方法が単に非効率な部分もあるだろう。例えば転送不要郵便などを使った手法は、旧大蔵省が金融機関にKYC業務の実施を要請した1990年から変わっていない。今ならば、テクノロジーが解決できる問題もあるはずだ。

 本人確認を巡る合理化は進むのか。カード類を取り戻すために費やした1カ月近くの日々と取り戻せなかった20万円に思いを馳せつつ、今後の議論を追いかけたい。