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 「何かスポーツをやられているんですか?」「いや、残念ながらただ太っちょなだけなんですよ」――。

 初めて会った方と、幾度となく交わしたこんなやり取り。骨格が太いことに助けられてガッシリとした印象を相手に抱かせるようだが、実態は大食漢特有の肥満体型。そんな私の悩みの種は、いつも洋服選びである。LサイズかXLサイズでないときついのだが、身長が低いのでソデやスソがそれでは長すぎる。だから、長年「七分袖のベースボールTシャツ」がお気に入りだったりする。

 そんなわけで、仕事で着ているスーツは全部オーダーだ。社会人なりたてのころは1着にかけられる予算が少なくなかなか作れなかったが、最近は手頃な価格帯で作ってくれるショップがたくさん出てきたので、ありがたい限りである。

1000種類以上の生地をとっかえひっかえ

 そんなオーダースーツの世界が、最近ITの力によって一層華やいでいる。テクノロジーの活用に積極的な代表格が、紳士服専門店で国内シェアトップの青山商事である。

 「洋服の青山」「ザ・スーツカンパニー」などのブランドで知られる同社は2016年2月、オーダースーツ事業に参入。その最大の目玉として、「バーチャルフィッティングアバターシステム」と呼ばれる仮想試着サービスを一部店舗に導入した。最近、実際に試す機会を得たが、実に新しく楽しい買い物体験だった。

写真●青山商事が提供する「バーチャルフィッティングアバターシステム」と呼ばれるオーダースーツの仮想試着サービス。自分そっくりのアバターがさまざまな生地のオーダースーツを着て、発注前の仕上がりを確かめられる
写真●青山商事が提供する「バーチャルフィッティングアバターシステム」と呼ばれるオーダースーツの仮想試着サービス。自分そっくりのアバターがさまざまな生地のオーダースーツを着て、発注前の仕上がりを確かめられる
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 来店客の顔を撮影して3D(3次元)のアバター(仮想キャラクター)をその場で作成。好みの形のオーダースーツをタブレット端末内で“縫製”して、自分のアバターに着せて確かめられるようにするものだ。1000種類以上の生地を次々切り替えて仕上がりの違いを確かめたり、店内に並んだシャツやネクタイ、靴も実際にとっかえひっかえしたりもできる。

 オーダースーツを作ったことがある方は分かると思うが、店頭に足を運んだらまず大量の生地見本を眺めて好みのものを選び、次に試着用のスーツを着て自分の形に合うように採寸をしてもらう。ただ完成イメージはあくまで頭の中にしかなく、最終的に目的通りのものに仕上がるかどうかは運試しの部分も少なくない。

 私の場合、自分の好みを一生懸命伝えたのに、何度完成したスーツを見てがっかりしたことか。フィッターと呼ばれるショップ店員の腕が原因の場合もあるが、単に相性が悪かったり、コミュニケーション不足や自分の創造力の足りなさもあったりするからややこしい。しかし、それなりのお金を支払って作ったのだから、数年間は着続けなければならない。

 バーチャルフィッティングアバターシステムの場合、完成イメージが作る前にリアルに分かるので、フィッターとコミュニケーションを図りながら具体的なポイントを追い込んでいける。生地の切り替えも瞬時に完了。「モモ回りは少し絞りたいんですけど」「ここの形をこう変えた方が最近の流行です」「シャツは青ばかりなので、合う生地はどっちかな」「だったらネクタイはこんな色がオシャレですよ」――。とにかく話しが弾む。店員の側もなんだか楽しそうだ。

写真●「ザ・スーツカンパニー」「ユニバーサルランゲージ」「ユニバーサルランゲージメジャーズ」のうち、システムを導入した13店舗で利用できる
写真●「ザ・スーツカンパニー」「ユニバーサルランゲージ」「ユニバーサルランゲージメジャーズ」のうち、システムを導入した13店舗で利用できる
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 おまけに画面中のスーツを着ているのは、自分そっくりの顔をしたアバター。体型もだいたい合わせられる。最初はちょっと恥ずかしいが、リアルな自分だからこそ、似合うか似合わないか冷静に判断出来る。ディスプレイに飾ってあった太い紺ピンストライプ生地にぐっときても、やめておいた方が無難だということも初めて学んだ。ただ無難になりがちだった生地の選択で、あえて少しは挑戦しようという気にもなる。生地が決まって実際に注文することを決めたら、もちろん通常のオーダースーツと同様に丁寧に採寸してくれる。

 サービス開発を統括した水谷修執行役員は、アイデアの原点を次のように説明する。「日本のビジネスパーソンが潜在的に持っているはずの変身願望を、テクノロジーによって叶えてあげたい」。顧客は無難なもので妥協し、店員は売りやすいものへと誘導する。そんな実情が一部にあるスーツ業界の慣習を打ち破りたいのだという。