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 新情報システムは弁当工場の業務を一通り支えるものだ。弁当の受注、材料の発注、弁当の製造、出荷手配を支え、会計を処理する。私が考えた新システムはさらに、原材料の発注、食材の部材展開、仕掛品の工程変更、作業場所ごとの工程別作業指示まで、弁当工場の全業務をカバーするものだった。

 しかも移転を契機に、工場を近代化しようと、「HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)という衛生管理の手法を取り入れることにした。これに沿って業務フローを改め、情報システムも作り直す。

 私は土地を物色し、施工業者と調理機器を選び、工場のレイアウトを検討、そのうえHACCPの学習に追われた。情報システムの設計になかなか手を付けられなかった。新工場の稼働日まで1年を切ったとき、私は自分で情報システムを設計、開発することを決めた。ITベンダーに業務を説明し、開発してもらう時間も、開発費も無かったからである。

 「やるしかない」。現場の業務屋になっていた私の中に残っていたシステム屋の魂に火がついた。

現場の業務経験が設計と開発に役立った

 工場の新システムを設計、開発するためにかけられる時間は短く、リスクは高かったわけだが、リスクを封じこめる優位点があった。エンドユーザーとシステムの設計・開発者が同一人物、つまり私だったことだ。

 設計・開発するために必要な情報は現場にいた私の頭の中にあった。工場に異動した直後、料理の盛り付けや配送など現場の業務を手伝ったことが、設計と開発に役立った。盛り付けを手伝った際には、古株の年配パートから何度も叱られた。

 「早くしてよ!」

 「こっちが先でしょ!」

 体で業務を覚えてきた人たちとのコミュニケーションは難しかった。だが、その体験は無駄ではなかった。現場が何にこだわっているのか、勘所が分かったからだ。

 新工場を支える新システムを作る第一歩は業務分析だ。といっても基本の業務の流れと、各々の時点で発生する基本情報を私は既に把握していた。さらに基本の流れには乗っていないがしばしば発生する「現場ならではの情報」を収集した。

 現行の業務は体に染み込んでいるくらい身近だったし、基本情報も日常の業務で嫌というほど目にしていた。だから、情報の漏れがないかチェックする程度で、現状の業務と情報を収集できた。業務の素人であるITベンダーのSEが根掘り葉掘り、一から質問し、時間をかけて、もったいぶった、役に立たない資料をまとめるのとは話が違う。