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 当初は「システムなんか関係ない、今まで通りにやってしまえばいい」という空気が現場の人間にはあったものの、「新工場では今までのやり方は通用しない」ということを少しずつ、分かってくれた。

 皆が頭を突き合わせて業務フローを固め、必要機能を洗い出していく様子を見て、「ここまで来た」と思った。基幹系システムの再構築でシステムテストをした際、現場の担当者が油だらけの手でキーボードを触るのを見てがっかりしたが、遠い昔のことのように感じられた。

 もっとも心配していた通り、身体で仕事を覚えてきた職人かたぎの調理人に納得してもらうまでは苦労した。物事に対する捉え方が私と違っていた。情報システムのために、要件をまとめ上げようという気持ちもなかった。

 業務を身体で覚えてはいるものの、説明することが苦手であった。私が提示した新しい業務フローもなかなか理解できなかった。そういう調理人たちに新システムの設計と開発に協力してもらえるまで、他の部署の人間よりも時間を要した。

 業務フローの線を赤ペンでなぞってもらっても、ちんぷんかんぷんだったようだ。業務フローが表現している業務のイメージがわかないらしい。すぐ投げだそうとした。

 何度も説明し、話し合い、少し分かるようになってくると今度は否定的な意見ばかり言ってきた。

 「そんなこと、できるわけないだろ!」

 「そのやり方では間に合わないよ!」

 だからといって引き下がる訳にはいかない。一つひとつ粘り強く説得し、言い分を撤回してもらい、理解を取り付けていった。

 この時、当初に集め、既に色とりどりに色分けされていた伝票や資料類を参考情報として提示した。いかに今の業務が非効率であり、非効率さによって本来、調理に回すべき時間が資料作りに費やされているか、分かってきたようだった。

 一方、業務改革の立場から見るとやや妥協の産物かもしれなかったが、手書きで作成していた伝票や資料をほぼ同じフォーマットで出力できるようにすると説明した。今まで苦労して作成していた伝票や資料が自動作成される。こういったことが業務フローを赤ペン片手になぞっていくうちに分かってくると、態度が変わっていった。

 時間の制約はあったものの、物語の登場人物達が動き出すところまで辛抱強く持っていくことを心掛けた。

プロトタイプの提示を急いではいけない

 並行して、各業務プロセスに対して「5W2H」をきちんと定義し、実施する役割と部署を明確にしていった。5W2Hとは次の通りである。

When(いつ):実施タイミング(事前条件含む)

Where(どこで):場所、組織

Who(誰が):担当者

What(何を):対象データ

Why(何のために):目的、狙い

How(どのようにして):実施要領

How many (どれくらい):データ量、時間

 その結果を業務フローに反映していった。業務フローレーン(見出し部)を二段にわけ、一段目に役割、二段目に諸室(作業場所)といった形に分割していった。こうすることで諸室ごとの役割、業務イメージが明確になった。