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 「Winnyの作者が逮捕されたことなどから,研究の成果であるP2P型ソフトウエアの公開を思いとどまった」——9月14日,日本ソフトウェア科学会による「P2Pコンピューティング‐基盤技術と社会的側面」と題するシンポジウムが開催された。パネル・ディスカッションの中で,独立行政法人 科学技術振興機構 研究員 阿部洋丈氏は,開発者の法的リスクを懸念し,匿名プロキシ・ソフトウエア「Aerie」の一般公開を中止したと語り,事件がソフトウエアの研究開発に影響を及ぼしている状況をうかがわせた。阿部氏は「研究そのものには全くブレーキはかかっていない」としながらも,「どうやったら善良であることを示せるのかわからない。ガイドラインが必要」と訴えた。

パネル・ディスカッション
 シンポジウムは,「P2Pをソフトウエア開発技術者の立場で議論する」という視点に基づいて行われた。パネル・ディスカッションでは,セキュリティおよびグリッド・コンピューティングの研究者で,BlogなどでP2Pに関して発言している独立行政法人 産業技術総合研究所 高木浩光氏は「個々のノード(ピア)が対等な立場で通信するpeer to peer自体はMacintoshのLocalTalkやpeer to pperネットワークOSなど,昔からある技術。Napstarの登場した時期に『P2P』と呼ばれるようになり,『仲間から仲間へ』という利用形態や『著作権者の過剰な権利に対抗するといった著作権革命思想』と結びついたと思われる」と,指摘。またWinnyの最大の問題点として「一度放流したコンテンツを,放流した本人でさえ削除できないといった管理困難性」などであると指摘した。

 成蹊大学法学部 助教授の塩澤一洋氏は「ソフトウエア自体は包丁と同様に法的には中立。Winny開発者の裁判では著作権侵害幇助が『故意であったかどうか』が争点になっている」と指摘。阿部氏の「「どうやって善良であることを示すべきか」という問題提起に関しては,「『善良でないと違法』ではない。中立であれば違法ではないと言える。ただし,例えば原子力発電のように危険な技術の開発者には,社会的に高度な注意義務がある。注意義務は倫理的な問題だが,法的問題になった際に司法の判断に影響を及ぼす」と話した。

 阿部氏は,「もともと技術的な興味で研究をはじめ,ソフトウエアを開発したが,完全に匿名でのアクセスを可能にするこの技術は,自分でコントロールできないものを生み出したのではないかという恐れも感じる」と心情を吐露した。現在は別の研究に興味が移ったため,状況が大きく変わらない限りおそらく今後も公開することはないだろうとしながらも,「アルゴリズムは論文として公開したので,誰かがソフトウエアとして実装し,それが公開される可能性はある」と語った。

 NTT サービスインテグレーション基盤研究所 亀井聡氏は,ネットワーク・レイヤーから見たP2P技術のインパクトと課題を提示した。「P2Pは,ネットワーク・インフラを使い尽くす傾向があり,またWebに適応している現在のインフラと相性が悪い。今後社会に受け容れられるP2Pサービスが登場したとしても,普及戦略を誤るとネットワークと共倒れになる可能性がある」と指摘。ひとつの解決策として「P2Pの下位レイヤーは標準化し,複数P2Pアプリケーションが下位レイヤーを共通化することで,キャッシュなどによりトラヒックを効率化できるかもしれない」とのアイデアを提案した。

 また,デジタルドリームの近藤治氏は,P2Pの商用利用の実例として,同社が開発したグループウエア「ifreestyle」の機能や構成を紹介した。

(高橋 信頼=IT Pro)