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 企業内の内線網を通信事業者などのIP電話サーバーで集中制御するサービス「IPセントレックス」――。このサービスが注目されるようになったのは2002年12月以来のこと。「東京ガスがIP電話で年間数億円のコスト削減」との報道が契機であった。

 東京ガスという「巨大企業」の導入によって,IPセントレックス・サービスには以下のようなイメージが固まったのではないだろうか。具体的には,(1)従業員数の多い大企業,(2)社内に置いたPBXは全面撤去,(3)既存の電話機をIP電話機に交換,(4)東京23区なら「03」で始まる既存の電話番号を利用――である。UFJ銀行や日興コーディアル証券といった企業も,自営のIPセントレックスを導入したことで筆者もその思いが強まった。

 だからこそ今年の企業ネットワーク実態調査において,IPセントレックス・サービスを導入もしくは今年中に導入する企業数が回答1312社の3.1%に過ぎない41社という結果を見ても,それほど違和感はなかった。しかし,昨年調査時点の0.8%からは急増している。そこで導入企業のプロフィールをつぶさに見てみると,先の(1)~(4)に挙げたユーザー像とは大きく異なる「発見」がいくつかあった。「緊急連載:企業ネットワーク実態調査」の第3回となる今回は,この新たなユーザー像を浮き彫りにしたい。

中堅企業の導入実績が最も多い

図1●企業規模別のIPセントレックス・サービスの導入状況
全回答1312社のうち,導入済み,または導入予定の社数
図1
  第1の発見は,(1)のユーザーの企業規模についてである。導入実績が最も多いのが,社員数300~499人の中堅企業だった(図1)。6社が既に導入しており,今年中にさらに4社が予定している。

 約600人の社員を抱える住宅販売会社のミサワホーム中国や約400人のラウンドワンは,IPセントレックス・サービスの魅力を「アウトソーシング」であると口をそろえる。両社とも,ネットワークやシステムの担当者が少ない。「2人で全45拠点を管理している」(ミサワホーム中国の本部経営推進部の小寺英輔課長)のが実情。ラウンドワンも同様で2人で45拠点を切り盛りしている。そこで「通信事業者に任せられるものは任す」(ラウンドワンの長渡ディレクター)とIPセントレックス・サービスを選択した。

アナログ電話機のためPBXを残す

 第2の発見は,PBXに関するもの。(2)の「全面的にPBXを撤去」と,(3)の「IP電話機の導入」が両立するものではなく,多くの企業ユーザーがIPセントレックス・サービスを導入しても,PBXを残して大事に使っていたのである。実際,IP電話機に交換したIPセントレックス・サービスのユーザーは4社に1社という調査結果が得られた。

 精密機械メーカーの神鋼電機もPBXを残したユーザーの1社。総務人事部の眞壁雅夫担当課長は「既存のアナログ電話機をそのまま使い続けたかったから」と理由を説明する。IP電話機導入によるコスト増に比べて,レイアウト変更のしやすさやというIP電話機のメリットに魅力をあまり感じなかったからだ。ラウンドワンも同様の考えである。このほかミサワホーム中国は,PBXを置いていない小規模の数拠点に限ってIP電話機を導入。その他の拠点ではPBXの更新時期まで,アナログ電話機を使い続ける。

電話番号のためPBXが必要

 PBXを捨てきれない,さらに切実な理由も見つかった。(4)の「電話番号」に関するものである。

 今のところ,IPセントレックス・サービスに限らずIP電話サービスの大半は,ユーザーにIP電話専用の050番号を割り当てている。東京なら「03」で始まる既存の電話番号が使えるIPセントレックス・サービスはまだ少ない。こうした状況から,ラウンドワンや神鋼電機も050番号を割り当てるサービスを導入した。

 050番号のユーザーの多くは「顧客への発信時には050番号を非通知にし,親しい取り引き先は050」,「既存の電話番号でかけてくる顧客には,PBXからNTT網経由で着信させている」という具合に使い分けている。「顧客への発信時に各拠点の既存電話番号を通知させる」ため,PBXからNTT網経由で発信することもある。現在の電話番号を使い続けたいなら,NTTにつなぐためのPBXを撤廃するわけにはいかない。

「100年先」も既存番号を使いたい

図2●IP電話サービスを導入済みと検討中のユーザーの電話番号に対する考え方
図2
 今回の調査から「既存の電話番号を使い続けたい」ことが,ユーザーの強い希望であることが明らかになった。IPセントレックスを含むIP電話サービス全体で,既存の電話番号を利用しているのは,ユーザー全体の4分の1。これが今年以降に導入を予定する「将来ユーザー」に絞ると,約半数が既存の電話番号を利用したいと回答している(図2)。

 「住宅を購入した顧客とは長い付き合い。番号は変えられない。本業でも最近は,100年保証の住宅も販売している」というミサワホーム中国の小寺課長は,既存の電話番号を使い続けられるようにIP電話の事業者と交渉中である。番号の継続性が本業に必要不可欠なユーザーは少なくない。

セントレックスの“見込み客”はNTTコム

 最後にIPセントレックス・サービスの利用率ランキングを報告したい。導入済みの21社に,導入予定や検討中の220社を加えた全241社の回答から算出した。

 トップはNTTコミュニケーションズ(表1)。「.Phone IP Centrex」が全回答の25%強を占めた。2位は富士通の「FENICS IP電話サービス」,3位はKDDIの「IPフォン セントレックス」と続く。ここで筆者は一つの傾向に気づいた。連載の第1回目で紹介したIP-VPNと同じ顔ぶれの事業者が並んでいる。WAN回線の事業者にIP電話サービスを構築してもらうケースもあれば,IP電話サービスの足回りのWAN回線が同じ事業者に限定されるといったケースがあるのだろう。

 インテグレーターの富士通にも注目したい。通信事業者を尻目に2位に食い込んだ。同社はネットワークを自社で構築/運営し,IP電話にも力を入れている。システムに強い富士通に対抗し得る魅力的なサービスを提供していかないと,通信事業者のサービスからユーザーが離れていく可能性がある。富士通に回線を提供するだけの,インフラ会社になってしまっていいのだろうか。

 この7月にパワードコムのIP電話事業を統合したフュージョン・コミュニケーションズの動向も目が離せない。両社とも単独では同率の6位だが,2社の数字を合わせると,富士通を抜いて2位に踊り出る。他の電力系事業者のIP電話サービスとどのように連携していくのか――。ユーザーの利便性を考えれば,各地域の電力系通信事業者がバラバラに動く理由はないといっていいだろう。

表1●IPセントレックス・サービスを利用もしくは検討しているユーザーにおける利用/検討率(回答241社)
順位サービス名(事業者)利用/検討率
1.Phone IP Centrex(NTTコミュニケーションズ)26.1%
2FENICS IP電話サービス(富士通)13.3%
3KDDI-IPフォン セントレックス(KDDI)12.9%
4NTTPC IP セントレックスサービス(NTTPCコミュニケーションズ)10.8%
5IP-One IPセントレックス(日本テレコム)7.5%

やっぱり電話はNTT?

 サービスの立ち上げから間もないので今年は集計の対象にしなかったが,東西NTTの「法人向けIP電話」もダークホース的な存在である。「電話といえばNTT」という考えるユーザーが多いからだ。

 このイメージが思ったよりも根強いことが今回の取材で分かった。実際,NTTコムのユーザーに取材しにいくと「最初は東西NTTに相談したが,自社に合ったサービスがないのでNTTコムにした」というケースが多かった。

 取材と調査の結果から浮き彫りになったのが,ユーザーのIP電話導入の背中を押しているのがIP-VPNや広域イーサネット,インターネットVPNといった新型WANサービスのコストダウンであった。筆者はこの点を痛感した。では,ユーザーはどのような視点で新型WANサービスを選択しているのか。導入した結果満足しているのか。明日は新型WANの最新利用動向についてお届けする。

(市嶋 洋平=日経コミュニケーション