PR

 「これまでの政府の調達仕様は,事実上特定のベンダーや技術に限定されたものになっていたのではないか。よりよい行政サービスを提供できるシステムを作るために幅広い選択肢を確保し,ユーザー側がボードを握るべき」――経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課長 小林利典氏は日経Linuxと日経ガバメントテクノロジー主催のセミナー「自治体Linux最前線」の講演でこのように語った(関連記事)。

 小林氏は「政府/自治体へのOSS普及のシナリオ」と題して講演。政府および自治体のITシステムが有するべき条件として「行政が責任を持てるシステムであること」,「利用者への平等性の確保」,「コストと機能」,「セキュリティ」をあげた。

 その観点から言って「これまでの政府の調達仕様は『M社のOS WSPと同等以上』,『J社の文書編集ソフトIと同等以上』など,事実上ベンダーや技術を限定したものになっていたのではないか,これまでの電子政府システムは,あるブラウザでなければ文字化けするなど特定の商品や技術を利用している人しか満足にアクセスできない状態になっていたのではないか」と自省した。

 2005年2月24日に政府のIT戦略本部が決定した「IT政策パッケージ」には,政府におけるオープンソース・ソフトウエアの活用促進が方針として盛り込まれた。すなわち「オープンソース・ソフトウエアについては,政府における活用促進を図るため,CIO連絡会議のもと,総務省および経済産業省が中心となって,2005年度早期に「オープンソースソフトウエアにかかわる政府調達の基本的な考え方(指針)」(仮称)を策定する,との文言である。

 「この調達指針の目的は4点。ライフサイクル・ベースで最適なソリューションを提供するために,コストとリスクを最小化すること。幅広い選択肢を確保することで最適な調達を行うこと。業務効率の向上,利便性の高いサービスの確保,政策の透明性の確保などをシステムのレベルで実現すること。ソフトウエアの調達を通じてソフトウエア産業とITサービス産業の健全な競争環境を確保すること」(小林氏)。ベンダー・ロックインを避けることにより,システムの移行時に最適なベンダーや製品を選択することができ,よりよい行政サービスをより低いコストで提供できることができる。

 調達指針は総務省と調整しながら,現在作成中だが,以下のようなガイドラインになる見込みという。

 「調達にあたって商標,商号,特許,供給者を特定してはならず,『○○○またはこれと同等なもの』といった定義は原則として行わない」

 「調達使用で参照する標準は,国際規格および日本工業規格を優先する。存在しない場合はオープンな標準を参照する」

 「資産継承上の制約により,既存システムからのデータの可搬性,相互運用性に関する要件を定義する場合は,できる限り国際規格,日本工業規格またはオープンな標準で規定されたデータ交換用のフォーマットを仲介させて行うように要求すべき」

 「例として製品の商標などを参照する場合は,複数の製品(商用製品だけでなくオープンソース・ソフトウエアを含む)を列挙することが望ましい」などだ。

 「例えば『OEEまたはこれと同等』という表現は『SQL規格で規定されたインタフェースを持つデータベースサーバー』と記述することが望ましい」(小林氏)

 このガイドラインは政府向けであり,自治体に採用が強制されるわけではない。「しかし,こういったガイドラインが自治体の担当者の方にも参考になるのではないか。こういった方向へ進んでいくべきというベクトルを示すことになるのではないかと考えている」(小林氏)。

 小林氏は,地方自治体でのオープンソース採用が進展していることを紹介した。Linuxサーバーを導入している自治体は,2003年の34.8%から2004年は53.0%と大幅に増加した。台数シェアでも,2003年の6.1%から2005年は11.4%と倍近く伸びた(関連記事)。兵庫県洲本市では災害情報システムや団体か活動促進システムをLinux,Apache,PostgreSQL,PHPで構築している。また北海道では学校間のスクールネットやポータル・サイト北海道人,庁内の複数のシステムでオープンソース・ソフトウエアを採用している。

 海外でも多数の事例が出てきている。「ドイツのミュンヘン市は1万4000台のPCのLinuxへの移行に着手。ノルウェーのベルゲン市は学校で使用しているWindowsサーバーとLinuxサーバーをLinuxに入れ替える方針を決定。米国フロリダ州ラーゴ市ではクライアント,サーバーともにオープンソースに変更し,年間約50万ドルの経費削減になったと聞いている。米国ウィスコンシン州ケノーシャ郡政府はWebサーバーやメール・サーバーをUNIXからLinuxに移行し,現在19部署のアプリケーションと公共サービスがすべてLinuxベースで稼動している」(小林氏)

 続いて,オープンソースに関する経済産業省の取り組みを紹介。2004年度は教育現場にLinuxデスクトップ機を導入する実証実験を行い,16校に約840台のLinuxを導入した(関連記事)。実験では,判明した課題の修正も行った。Webブラウザで動画を扱う際の不具合や使い勝手の改善,そして毎晩システムを最新状態に戻す管理ツールの開発である。これらの成果は公開する。

 2005年度は自治体を対象にした実験を実施する(関連記事)。6月から7月に独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)から公募が出される予定だ。「対象自治体の対象業務の業務分析から始め,オープンソースを導入する際の技術的,非技術的な課題を洗い出す。フィージビリティ・スタディの手法,発見された課題と解決方法などの成果はすべて公開する」(小林氏)

 また経産省では,オープンソースに足りない機能を補完する「オープンソース・ソフトウエア活用基盤整備事業」を実施している。データベースや印刷,デスクトップの日本語入力など,様々な分野のオープンソース・ソフトウエア開発を支援している。

 国際展開としてはアジアOSSシンポジウム開催によるアジア各国との連携,日中韓での人材育成や標準化などでの協力を実施。そのほかオープンソースに関する法的問題の研究や人材育成などを進めている。

 最後に小林氏は「選択肢が限られると,ベンダーにボードを握られてしまう。よりよい行政サービスを提供できるシステムを作るためにはユーザーがボードを握るべき」と,ベンダー・ロックインに陥ることのないシステム調達の重要さを訴えた。

(高橋 信頼=IT Pro)