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 IT革命の究極の“白書”と目されているのが米商務省の「The Emerging Digital Economy(来るべきディジタル経済)」。98年4月に最初の報告書が発表され,それから毎年6月に刊行されている。今年の白書では,「出現しつつある,来るべき」という意味の“Emerging”がタイトルから削られた。商務省は,電子商取引(EC)がもはや一時的な流行ではなく実体を持つようになり,経済やビジネスの方法に根本的な変革をもたらしているとの認識を示したことになる。

 「電子商取引が現実(リアル)になった」と商務省が判断する一方で,米法律家協会(ABA)は7月に,ネットビジネスの無法・無秩序状態の是正について2年間かけて作り上げた報告書をABA年次総会で明らかにした。

 「火星に降り立って,商売とビジネスの環境を一から整えようとしているような状態」とこの報告書が指摘するように,ネットビジネスでは訴訟や問題が各所で顕在化しつつあるのも事実だ。Webサイトで交わされているオンライン契約の8割程度は強制力を持たないとの警告もある。ABAは国境を超えたサイバースペース法の勧告を検討中である。

 現在,インターネットのあらゆる争いの司法権は「購入者やWebサーファ居住の国に属する」というのが,多くの裁判所の判断となっている。そのため企業やWebサイトは,世界中の国の法律にも服さなければならない。企業には相当な重荷だ。一方「司法権はWebサイトの拠点の国にあるべき」との見解もある。しかし,購入者は遠い国の法律で自分がどう扱われるのか分からないし,企業は規制のない島国にでも本拠を移したほうがマシという誘惑に負けてしまうかもしれない。

 また米会計検査院(GAO)は7月末,インターネット取引がこのまま非課税で行われ続けた場合に,2000年に38億ドル,2003年には120億ドル(約1兆2000億円)以上の税収が失われるという報告書を発表している。これも電子商取引の根本問題だ。

 あまたの企業間取引(BtoB)市場開設の動きのなかで,最大のマーケットプレイス(バーチャル市場)は米GM(ゼネラル・モーターズ),フォード・モーター,ダイムラークライスラーが2月にぶち上げた「コビシント(Covisint)」だろう。

 3社合計で年間3000億ドル(約30兆円)にのぼる部品購入を1本化し,経費削減を狙う。これで自動車1台あたり約12万円のコスト削減につながるというから,競合他社にとっては脅威。日本や欧州の他の自動車メーカも強い関心を寄せている。ちなみにコビシントは,将来的に7500億ドルの取引を見込んでいる。

 しかし,この3社のオンライン部品調達ネットワーク構築計画について,米司法省や米連邦取引委員会(FTC),欧州委員会などが調査を始めた。このため,当初7月からスタートの予定だった3社の企業間商取引は大幅に遅れる模様だ。

 米マイクロソフトを独禁法違反訴訟に持ち込んだ米司法省がコビシントに関心を寄せる理由は,「集団購入」にあるとされる。ロンドンで開かれたABAの年次総会で米司法省の幹部は,「買い手の9割が一つのWebサイトに集まる状況は見逃すべきではない。これは紛争の種だ」と話した。つまりカルテルの疑いである。

 「大メーカが共同購入という名の下で徒党を組み,一つのWebサイトで納入業者から部品を購入した場合に,最も儲けるのは大企業になる可能性が高い」というのが司法省の主張。コビシントに日欧の全メーカも参加したら,部品納入業者にはたった一つの巨大顧客しか存在しないことになり,大メーカの思うがままになりかねないという危惧である。

 司法省の幹部は,「大企業の購入サイトには,何らかの規制の網が掛けられるだろう」と示唆。「政府規制が21世紀になっても可能とは思えないが,唯一独禁法で政府は介入する」と,独禁法を電子商取引に持ち出す考えを述べた。

 ビッグ3がWeb取引市場所の承認を待っている一方で,米国の自動車部品メーカ大手7社に,独自のオンライン取引システムを構築する動きが出ている。7社はコンサルタント会社に,独自システム構築のコストや問題についての検討を依頼した。7社の言い分は,「今でもぎりぎりのマージンで受注している。時流と言うだけではWeb取引に乗れない」というものだ。

 この例のような問題は,自動車だけでなく航空会社と旅行代理店などでも起きている。我が国の大手企業にとっても他人事ではすまない問題と言えよう。