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 最近興味深く読んだ本に「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン著,伊豆原弓訳,翔泳社)がある。なぜ米IBMや米Digital Equipment Corp.(DEC)といった超優良企業が,新興勢力の後塵を拝したかを分析した書だ。

 このなかで著者は,技術革新を「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」の二つに大きく分けている。前者は,一時的には製品性能の低下を招くことのある技術だが,従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす。新興企業が台頭し,大手企業を衰退へと導くパワーを秘めている。後者は,既存製品の性能を高める技術だ。漸進的なものもあれば,性能を格段に高める画期的な技術もある。

 では,話題沸騰のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション(PS) 2」はどちらに分類されるのだろうか。この10年あまり続いた米Microsoftと米Intelを軸にしたIT業界の枠組みを崩すだけの底力を備えているのか。今回は,PS2の「イノベーション性」について考えてみよう。

 PS2は十分に「破壊的」だが,「継続的イノベーション」に属する --- これが筆者の見方だ。ここで注意して頂きたいのは,「破壊的イノベーションが優れていて,継続的イノベーションは劣る」という意味ではない点である。いずれも立派な技術革新だが,産業的な位置づけが異なるのだ。

 それにしてもPS2のインパクトは大きい。マスメディアの持ち上げ方や騒ぎ方も尋常ではない。発売開始となった3月4日の夕刊の1面には,「秋葉原に5000人」「相次ぎ完売」「プレステ2 狂騒曲」といった大見出しが踊った。テレビや雑誌,インターネットのメディアでも競ってPS2を報じている。

 PS2を家庭用ゲーム機としてとらえると,あくまでも持続的イノベーションだろう。組み込まれている「Emotion Engine」と呼ぶマイクロプロセサにしても,描画性能こそ恐ろしく高いものの,どちらかというと力技(ちからわざ)という面が強い。1チップに可能な限り多くのトランジスタを詰め込み,演算器の数を増やして性能を高めている。マイクロプロセサの性能向上の歴史を踏襲する。典型的な持続的イノベーションと位置づけられる。

 PS2は,家庭用ゲーム機としてだけではなく,家庭の情報化(インターネット化)の先兵という側面も担う。日本国内だけではなく海外のマスメディアもPS2に注目するのは,「インターネット・アクセスにはパソコン」という枠組の変更を迫る,さらに言えばインターネット時代(ポスト・パソコン時代)のライフ・スタイルを創造する「破壊性」についてである。

 確かに,PS2は消費者の購買行動に影響を与えている。この意味で,「破壊性」を十分に備える。

 たとえばDVDプレーヤの機能。PS2はDVDを再生する機能を装備するが,見方を変えれば,既存のプレイステーション互換のゲーム機能を備えたDVDプレーヤが,3万9800円で手に入ることになる。DVDプレーヤの売れ行きへの影響は避けられそうもない。パソコンにも余波が及ぶ。最近ではDVD-ROM装置を装備するパソコンも少なくないが,「どうせPS2にDVDプレーヤが付いてくるのだから,パソコンに組み込むのはDVD-ROM装置ではなく,値ごろ感が出てきたCD-R/RW装置にしよう」といった考えも当然出てくる。

 でも,ポスト・パソコンとしてインターネット時代を担う「破壊的イノベーション」とPS2を見なすには違和感がある。何か違う。

 PS2が備える「家庭用ゲーム機」「DVDプレーヤ」「CDプレーヤ」「IEEE 1394やUSB,PCカードといった拡張性」自体は,けっして珍しいものではない。将来的に加わる「インターネット・アクセス機能」と「インターネットを介したサービス」を考えても,事情はさほど変わらない。消費者が望みそうな機能をあれもこれも備え,しかも3万9800円という値付けは非常に魅力的だが,従来とはまったく異なる価値基準を市場にもたらす「破壊的イノベーション」とは言い難い。

 パソコンに取って代わるほどの力強さは感じないものの,家電製品としてのPS2はきわめて魅力的。著者も食指が動く。それに何と言っても,懐具合を「破壊」しないところがいい・・・。