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 いまさら言うことでもないが,インターネットは日々急速に拡大し,成長が衰える気配はない。95年末に,イーサネットの開発者であるボブ・メトカフ氏は急激に成長するインターネットの状況を見て,「インターネットは96年に崩壊する」と予言。96年に入り,さまざまな議論を巻き起こした。

 しかし,その予想は外れた。インターネットの成長を追い越す勢いで,通信技術が高速化,大容量化へ進んだためだ。高速化,大容量化を支えたのは,ルーターの高性能化と光通信技術の進歩である。

 特に,光通信技術の進歩はめざましいものがある。1本の光ファイバで伝送できるデータ伝送容量の向上の勢いは,LSIに集積可能なトランジスタの数に関する経験則「ムーアの法則」(18カ月で2倍)よりも速い。2000年に入り,一つの波長で10G(ギガ=10の9乗)ビット/秒のデータを伝送する「OC-192」に対応する製品が続々登場してきた。10Gビット/秒とは,光が3cm進む時間で1ビットのデータを伝送する速度である。

 さらに,複数の光の波長を束ねて1本の光ファイバで伝送するDWDM(高密度光波長多重)技術の発展も目覚ましい。NECが6月に発表したDWDM装置は,OC-192を最大160波束ねて,1.6T(テラ=10の12乗)ビット/秒のデータ伝送が可能だ。

 しかし,これではまだ不十分だと考える人たちがいる。

 通産省は,「フェムト秒テクノロジー研究機構」(FESTA)と呼ぶ団体で,超高速データ通信に必要なデバイス技術の開発を進めている。「フェムト秒」とは聞き慣れない言葉だが,『10の-15乗』秒(1000兆分の1秒)を表す単位。光は1秒で30万km進むが,1フェムト秒で光が進む距離はわずか0.3μm。およそ病原体(ウイルス)の大きさだという。

 FESTAは,フェムト秒レベルでレーザー光を制御する技術を開発し,1波長でテラビット級のデータ伝送を実現する。さらに,高速で動作する光スイッチを開発し,テラビット級のデータ交換ネットワークを構築することを目指す。2000年末に研究開発の第1フェーズ(原理の実証と要素技術の確立)を終え,2001年から第2フェーズ(要素技術の高度化およびシステム応用に向けたデバイスの実証)に入る。

 FESTAのさらに先を行くのが「量子情報通信」だ。量子情報通信とは,光の粒子としての性質を使い,その光子(量子)一つひとつに0/1のディジタル信号を乗せて伝送する通信技術。光の明滅や,電気信号を波として利用する現在の通信技術に革命的な変化をもたらす。実用化されれば,ほぼ無限のデータを瞬時に伝送できるようになる。そればかりでなく,解読不可能な暗号通信を実現する技術としても期待されている。

 郵政省は6月に,「21世紀の革命的な量子情報通信技術の創生に向けて」と題する報告書を公開,2001年度の予算に量子情報通信の研究開発予算を組み込む姿勢を明らかにした。量子情報通信は,理論上実現可能というだけで,まだ確固たる実現技術が見えていない段階。実用化の時期は2030~2100年ころだという。

 10Gビット/秒でさえ,なかなかイメージできない世界。テラビット級のデータ伝送や量子情報通信と言われても,ピンとこないのは事実だ。しかし,こうした技術開発に注力する意義は大きい。現状,インターネットを利用しているユーザーは,全世界の人口の10%に満たない。まだまだ高速化に対するニーズは衰えない。全世界の人々が分け隔てなくインターネットに接続し,世界規模の情報インフラとなるには,現状をはるかに上回る高速の通信技術が不可欠。技術的な下地があって初めて,インターネットは世界規模の情報インフラに近付く。