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(BizIT 記者の眼 2000.8.29)

 日本では今,部品や資材などの企業間取引の場をWWWサイト上に提供する「e-マーケットプレイス」の設立ラッシュに沸いている。計画中のものも含めると,既にその数は70以上にもなり,取引対象も石油化学製品や鉄鋼材,電子部品,紙パルプなどと多様だ。米国でのe-マーケットプレイスのブームが,ようやく日本にも波及してきた形である。

 今や,e-マーケットプレイスは企業間EC(電子商取引)であるBtoBの本命とも目されている。しかし,SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の観点から見ると,e-マーケットプレイスの位置付けがどうもはっきりしない。

 e-マーケットプレイスは不特定多数の企業に取引の場を提供するので,利用企業は系列などの枠組みを超えて効率的な調達活動が行えるという。結構なことだが,企業のSCMの試みに,e-マーケットプレイスはどのような役割を果たすのだろうか。非常に重要なテーマのはずなのだが,こうした議論はおざなりのままe-マーケットプレイスのブームだけが盛り上がっているような気がする。

 SCMは言うまでもなく,部品・資材の調達からユーザーに製品を届けるまでの全業務プロセスをサプライ・チェーンとしてとらえ,そのチェーン全体を管理しようというもの。不良在庫や機会損失を生まないように,販売情報や生産情報を販売会社や完成品メーカー,部品・資材メーカーなどの間で共有し,市場の変化に即応できる体制作りを目指している。

 従ってSCMでは,企業間の関係は戦略提携などタイトなものになる。一方,e-マーケットプレイスはオープンな企業間取引の場を提供するため,“ルーズな企業関係”を指向する。一見するとベクトルが正反対であるため,SCMにe-マーケットプレイスを位置付けるのは不可能のようにも見える。

 しかし,「市場の変化は速く予測できない」というSCMの問題意識の原点に立てば,e-マーケットプレイスの意味も見えてくる。大量生産の時代なら,ほぼ正確に市場の動向を予測ができた。トヨタ自動車のカンバン方式で一世を風びしたジャスト・イン・タイム(JIT)の課題は,いかに効率良く決められた数量を生産できるかだった。一方,現在のSCMでは「市場が予測できなくなった」ことを前提に,いかに市場の変化に対応できる体制を構築するかが大きな課題となっている。

 ただ,SCMの課題のクリアは非常に難しい。確かに,製造業などの多くの企業が,SCMによるリードタイムの短縮などを図っている。しかし依然として,思わぬ大ヒットに部品供給が追いつかなくなったり,販売不振で在庫の山を築いたりするのは日常茶飯事のことだ。

 大手メーカーなら,1つの製品だけでもサプライ・チェーン上に数百社,場合によっては1000社以上の企業が乗ることは珍しくない。現実問題として,このような巨大なサプライ・チェーンを“中央統制”的に管理することで,激変する市場を相手にすることが可能なのだろうか。私は不可能と思う。もし,このようなことが可能ならば,旧ソ連の共産党だって復活できてしまうだろう。

 実は,こうした既存のSCMの“欠陥”の中にこそ,e-マーケットプレイスの可能性が見える。激変する市場に対して効果的に対応するためには,部品や資材などの取引にも“市場”を導入すれば良い。e-マーケットプレイスの本質はここにある。

 もちろん,自動車ならエンジンやブレーキなど価値の源泉である部品は,従来のSCMでサプライ・チェーンをタイトに管理する。しかし,規格化されてどこからでも調達できる部品や資材については,必要最低量を除いた需給変動分は「市場 = e-マーケットプレイス」で調達する。もし需要予測を誤り,過剰在庫が発生したのなら,今度はe-マーケットプレイスで売却すれば良い。つまりe-マーケットプレイスには,サプライ・チェーンの余計な枝葉を落とす意味がある。これによりSCMは単純化され,需要の変化に柔軟に対応できるようになる。

 実際には,e-マーケットプレイスのような市場は既に存在している。石油化学製品や鉄鋼材など市況商品(コモディティー)を扱うスポット市場などである。こうした市場は需給変動を調整する役割を果たしており,企業にとって一種の公共財となっている。これから登場するe-マーケットプレイスも公共財としての役割が要求されるだろう。系列やライバル関係を超えて多くの企業が利用しなければ,e-マーケットプレイスは市場として機能しないからだ。

 このように考えると,米国で今春,自動車のビッグスリーが部品や資材を取引するe-マーケットプレイスを共同で立ち上げた意味もスムーズに理解できる。更に,e-マーケットプレイスで先物市場を創設しようという動きも,分かりやすい話になる。部品や資材の取引を市場に任せれば当然,需給変動による価格の乱高下という市場リスクにさらされるため,リスクをヘッジするデリバティブ市場が必要になるというわけだ。

 もちろんe-マーケットプレイスが公共財として順調に発展するかどうかは,まだ分からない。しかし,こうした底流の動きを分析せず,「BtoBで巨大連合」とか「先物市場も創設」といった上辺(うわべ)の話題に終始するならば,日本のモノ作りの未来を誤る恐れも出てくる。

(木村 岳史=日経ネットビジネス副編集長)