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 7月末時点の携帯電話利用者は5400万人にも上る。そのうち,NTTドコモは約60%とかなり高いシェアを占めている。だが,そのシェアの高さがユーザーにとって不利益をもたらす危険性が表れ始めている。今のNTTドコモが,パソコンOS「Windows」の圧倒的なシェアの高さを背景にパソコン・メーカーなどに圧力をかけた米マイクロソフトとダブって見えてしまうからだ。

 特にその弊害が出始めているのが,今や世界中にその名を知らしめた「iモード」である。iモード向けにコンテンツを提供してビジネス展開しているA社の担当者によると,NTTドコモから「DDI系セルラーやJ-フォンには,当分コンテンツを出さないでくれ」と言われているという。もちろん,それはあくまでも“お願い”なのだが,A社と競合している別の会社がNTTドコモ以外にコンテンツの提供を始めたところ,あからさまにNTTドコモに睨(にら)まれたという。「うちもNTTドコモ以外にコンテンツを出したいが,今はその勇気はない」とA社の担当者は語る。

 携帯電話向けに新しい情報提供ビジネスを展開しようとする企業にとって,NTTドコモのiモードは欠かせないインフラ。7月末のiモードのユーザー数は980万人。一方,DDIグループ(セルラー電話/日本移動通信/ツーカー)の「EZweb」は300万人,J-フォンの「J-スカイ」は220万人だ。iモードのシェアは65%である。

 しかもアクティブ・ユーザーで見ると,iモードのシェアはさらに高まる。NTTドコモはiモードだけのために月額300円必要だが,セルラー電話の場合は留守電サービスとEZwebが一体化して月額300円のため,留守電サービスだけを使いたいユーザーも自動的にEZwebユーザーに数えられる。さらにJ-スカイは,付加機能使用料がかからないため,J-スカイ対応端末を持っているユーザーすべてをJ-スカイ利用者としている。事実上,iモードのシェアは圧倒的と言える。

 それでも,コンテンツ提供企業が数百万オーダーのiモード以外のユーザーをみすみす見逃す手はない。iモードの次は,EZweb,J-スカイと考えるのは自然の流れだ。だが,そこにNTTドコモの“お願い”が入ると,A社のように二の足を踏むことになる。

 今冬にも提供が始まる携帯電話のJavaコンテンツでも,同様の弊害が起こる危険性がある。Javaと言えば,パソコンのハードウエアやOSの違いに関わらず,共通のJavaアプレット/アプリケーションが動作するのが最大の特徴。だが携帯電話に関して言えば,Javaのこうした特徴は生かされそうもない。NTTドコモ向けのJavaアプレット/アプリケーションは,DDIグループやJ-フォン端末では動作しない可能性が高いからである。

 こうした事態を避けるため,DDIグループはNTTドコモとJavaのAPI(application programming interface)の仕様を合わせて互換性を確保する方向で検討中だ。しかし,今のところNTTドコモは,Java APIを共通化させるような情報をDDIなど他事業者に公開する予定はないと言う。

 確かに,iモードのコンセプトをいち早く確立し,苦労に苦労を重ねてコンテンツ提供企業を開拓してきたNTTドコモの心情も分からないこともない。先行者メリットを最大限に生かそうとする戦略は当然とも言える。だが,iモードが海のものとも山のものともつかない時期に,コンテンツ提供企業を説き伏せてきたiモードのメリットは,まさに「iモードはオープン仕様」だったはず。最近のNTTドコモの戦略は,その“オープン精神”からかけ離れていくように思えてならない。

 マイクロソフトは,その圧倒的なシェアを生かした戦略で大成功を収めた。しかしマイクロソフト製品と競合する製品が育たなかったために,機能や価格面でユーザーには明らかにデメリットがあったとされる。それゆえにマイクロソフトは,今まさに企業分割の危機にさらされている。NTTドコモがマイクロソフトと同じ道を歩むことのないよう,ユーザーは目を光らせる必要があるだろう。また,NTTドコモ自身の翻意にも期待したい。

(安井 晴海=日経コミュニケーション副編集長兼編集委員)

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