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 社会経済生産性本部の視察団のメンバーとして米国通信産業を訪問する機会を得た。やはり,競争の激しい米国通信産業の技術革新の速さに一驚するとともに,日本の通信産業の歩みの遅いのが気に掛かった。特に,米AT&Tで聞いた「オプティカル・コア・メッシュ」のコンセプトには,理解が追いつかないほどで,正直なところ焦りを感じざるを得なかった。

 オプティカル・コア・メッシュは,高速の光ファイバが都市間をメッシュ状に稠密に結ぶというもの。最も基礎的なインフラの構造である。バックボーン(背骨)というイメージでは,最早ない。ネットワークのイメージでもない。光ファイバによる編物の目のような「メッシュ」というわけである。

 完成する5~6年後には,テラビット級の超高速ネットワークで,ここをIP(internet protocol)の情報が流れる。構造図では,このメッシュの上に光ルーター(光の波長によってトラフィックを振り分ける。ラムダ・ルーターとも呼ぶ)が接続し,データを交換する。これまでのATM(非同期転送モード)などの交換システムは姿を消している。

 AT&TのIP部門の責任者は「最早,ATMは過去のシステムとなる。2000年からはATMへの投資を中止した」と言う。

 オプティカル・コア・メッシュの基礎となる都市間の光ファイバの高速化も加速している。主要都市間の光ファイバ・システムの速度は,98年には一部にはギガビット・クラスもあったものの155Mビット/秒程度が中心だった。これが,99年末には2.5Gビット/秒やこれを束ねた数ギガビット/秒が中心となり,2000年末には10Gビット/秒が普通になるという。波長多重(WDM)技術などに後押しされ,1年間に4倍から8倍という猛烈なスピードで性能が高まっている。説明のなかで「劇的に変化する」という言葉が繰り返し登場した。

 一方,日本ではいま「IT革命」という言葉が氾濫し始めた。衆議院選挙の公約のなかには電子政府やらIT革命,インターネットの端末の無料配布など,どうもイメージが浮かばないままの言葉が飛び交った。

 しかし,スローガンの時代が終わり,民間企業同士の激しい競争になった米国通信業界を見ると,この日本の状況は,春の日の心地よいうたた寝のような,ひどくのんびりとした風景にみえる。

(中島 洋=日経BP社編集委員)