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 筆者は3年前から,PHSを愛用している。あまりいばれた話ではないが,当時おおいに流行っていた「ハードは無料」という触れ込みに引っ掛かって(?)契約したものだ。月々の基本料や通話料は意外に安くない。それでもメール兼ブラウザ端末と接続すると,地下鉄のホームでの乗り換え時間にネットにアクセスでき,PHSはなかなか便利である。

 BizITの仕事のために,会社にいる大半の時間向き合っているWWWブラウザも,無償で公開されているソフトだ。情報収集のために見ているWWWサイトも,ほとんどすべてが無償公開のコンテンツである。その成果物としてBizITで公開しているコンテンツも,ご存じの通り読者のみなさんには無償でご提供している。

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 「無料提供」によって市場を一気に広げるというパターンが,最近とみに目立っているように思う。PHSやWWWブラウザ,ポータル・サイト,Linuxなど,市場に“定着”するクリティカル・マスをごく短期間で得た新商品・新サービスの中には,「無料提供」を原動力に伸びたものがけっこう多い。

 「無料」といっても,提供者がビジネスとしてやっていれば,当然ながら最終的には帳尻が合うようになっている。PHSで言えば基本料や通話料収入で元を取っているはずだ。BizITのコンテンツの場合,一緒に広告を露出するかわりに広告料を頂戴して,我々はなんとかオマンマが食えている。

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 毎日のように新規参入のニュースが流れてくるASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の市場にも,「無料提供」で勝負をかけるベンダーが現れている。

 日本では5月末に,ソフト・ベンダーのディサークル(東京)が,自社製品「POWER EGG」をASPベンダーと契約するにあたって,グループウエア機能の部分は無償で提供する制度を発表した。グループウエア機能でユーザーを広く集客した上で,ワークフローや顧客管理など,「POWER EGG」の残りの高度な機能で収益をあげようという戦略である。

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 米国でも,「無料ASPサービス」というセグメントが生まれつつある。

 例えば今年2月にスタートした「AppCity」は,専用ブラウザAppPlayerと専用のソフト開発環境AppZapperをともに無償で公開。AppZapperで作ったアプリケーションを,AppPlayerクライアントで使うASPサービスだ。

 すでに営業支援や人事管理,プロジェクト管理,電子商取引,家計簿,オーガナイザなど,企業向け/個人向けとりまぜたアプリケーションが開発され,無償公開されている。

 AppCity.comでは広告収入と,Amazon.comなど提携先の電子商取引サイトからの販売手数料収入で,ビジネスを成立させようとしている。またAppZapperはごく単純な開発ツール(注)のため,AppCity.com側は一般ユーザーによるアプリケーションの開発,公開を期待している。

 このほか,グループウエアの「HotOffice Technologies」,デスクトップ環境の「Desktop.com」,Office系アプリケーション「myWebOS.com」などが,無料ASPサービスを提供(試行)している。

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 ASPのメリットはいろいろあるが,「アプリケーションやサーバー,運用を共同利用するので,自社で購入するより低料金」というのが,もっともわかりやすい利点である。ユーザーの最大の関心事がコストだとすれば,「無料ASP」には相当な訴求力があるだろう。

 今のところ,MS-OfficeとかSAP R/3といった著名なソフトを,「無料ASP」で提供するベンダーは,日本でも海外でも登場していないようだ。しかし,広告収入や物販からの手数料収入などでうまくビジネス・モデルが成立するならば,メジャーな製品の無料ASPサービスも実現可能に思える。

 そうしたベンダーが登場することが,「ASPへの参入ベンダー相次ぐ」時代から,「ASPの採用相次ぐ」時代への扉を開いてくれるだろう。そして,ASPのすそ野が広がることで,現在は机上の論の段階を脱していない「サービスの質の競争」が本格的に始まるきっかけともなるはずだ。

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 ただし,「無料提供」という冒険に挑んだベンダーは,えてして次世代への捨て石となりがちである。ブラウザの無償提供戦争を戦ったMicrosoftとNetscapeは,その後もくろみ通り「自社ポータル・サイトへの集客」で稼げただろうか。「無料パソコン」や「無料インターネット接続」も,ずいぶんと新聞記者のメシのタネにはなったが,事業者が成功を収めたとは思えない。

 そういえば筆者の「無料PHS」の3年前の納品伝票を見ると,発送元は株式の高騰と暴落で最近大注目の某H社なのであった。

(千田 淳=BizIT副編集長)