PHSサービスのユーザ数減少に,ようやく下げ止まりが見えてきた。2000年4月末時点の加入台数は575万7000台で,3月末に比べて4万9000台の増加。ここ半年間で見ると,99年11月と2000年2月を除けば月間で数万台ずつ伸びている。一般に,3月と4月は電話サービスの需要期のため,今後もユーザが増え続けるかどうかは確実でないが,以前のような底の見えないユーザの減少だけは脱したようだ。


 これまでの通信サービスの例から言うと,いったん不人気に陥ったサービスが“復活”することはきわめてまれである。実際ポケベルのように,依然ユーザの減少に歯止めがかからないサービスもある。PHSにしても,最盛期の700万台には遠く及ばず,この程度のユーザの伸びをもって復活と呼ぶにはまだ早い。しかし,業界関係者のなかでも一時期は「PHSは終わった」とまで言われていたことを考え合わせると,よくここまで持ち直したと言わざるをえない。


 PHSのユーザ数が増加に転じたのは,急拡大している移動電話市場全体の“おこぼれ”を頂戴したに過ぎないとする見方もある。だがPHS事業者も,ユーザの減少をくい止めるために,いくつかの機能拡張やサービス拡充を実施してきた。実際は,その効果が少なからず現れた結果と言える。今回は,新しくなったPHSの実力を再検証してみよう。


通信品質--高速ハンドオーバーで自動車・電車のなかでも利用可能に


 PHSの機能で,以前と比べて最も大きく変わった点は,高速ハンドオーバーをサポートしたことである。これは,PHSの最大の弱点と言われていた高速移動時のハンドオーバー(端末機の移動による無線基地局の切り替え)を克服したもの。DDIポケットが99年夏から投入した「H"(エッジ)」端末には,同社が「ツインウェーブ機能」と呼ぶ高速ハンドオーバー機能が内蔵されており,同社のユーザ331万台(4月末時点)のうち,すでに131万台(同)がH"端末となっているなど,高い人気を博している。


 アステルも,新型端末はすべて「スーパースムーズ」と呼ぶ同等機能を搭載。従来は携帯電話との差異化が難しいとの理由で投入を見送っていたNTTドコモも,4月末から順次,「クイックリンク機能」と呼ぶ高速ハンドオーバー機能を組み込んだ「tera(テラ)」端末の販売を始めた。


 実際に使ってみると,以前のPHSに比べて明らかにハンドオーバーがスムーズになったことが分かる。交通事故の発生や医療機器への悪影響などを考えると,自動車や電車のなかでPHSや携帯電話機を安易に使用すべきではないが,確かに自動車・電車のなかでの通話もほとんど問題なくなった。もちろん新幹線のような超高速移動時には向いていないが,私の経験では,電波状況のよい場所では新幹線内での通話も不可能ではなかった。


 通信品質としては通話時の音質も重要だ。NTTドコモの「ハイパートーク」など,最近は携帯電話の音質改善も著しいが,この点ではPHSが圧倒的に有利である。屋外では,背景雑音などのためにある程度会話が聞き取りにくくなるのは仕方ないが,静かな場所で電話をかけた際のPHSの音質は固定電話に迫るものがある。以前,私がPHSを使って取材先に電話をかけたときには,「今,会社(の固定電話)からですか?」と質問されたことすらある。


サービス・エリア--アンテナ出力の向上でエリア内の“穴”が激減


 PHSが敬遠されたもう一つの理由は,サービス・エリアの狭さだった。エリア自体の狭さもさることながら,やっかいだったのはエリア内の不感地帯。事業者が用意するエリア・マップでは使えると書いてあった場所でも,電波状況などによって使用できないこともままあった。


 だが,こうした状況は現在ではかなり改善してきたと言える。以前から500mWの高出力アンテナを設置してきたDDIポケットにならい,NTTドコモやアステルが従来の低出力アンテナを高出力アンテナに置き換え,サービス・エリア内の不感地帯の減少につとめているからだ。DDIポケットも,「アダプティブアレイ」と呼ぶ,端末追尾型の高機能アンテナの設置を進めている。


 もっとも,サービス・エリアそのものの広さに関して言えば,やはり携帯電話にはかなわない。特に,地方の都市部以外やリゾート地域での差は歴然だ。ただし東京・大阪などの大都市では,携帯電話とそれほど変わらない範囲で利用でき,そのうえ,地下鉄の駅などPHSの方が有利になる場合も多い。大都市に住む人の多くは,携帯電話から移行してもそれほど利便性は低下しないはずである。


データ通信--64kビット/秒はあるがiモード対抗サービスは力不足


 携帯電話にないPHSの魅力の一つが高速データ通信機能である。現在,DDIポケットとNTTドコモは業界標準の「64kビット/秒PIAFS」による通信サービスを提供中。アステルも,2台のPHS端末機を使って2回線を束ねるという変則の方法ながら,64kビット/秒通信を実現している。


 一方の携帯電話は,多くの端末の上限が9600ビット/秒。NTTドコモは最大28.8kビット/秒,セルラー電話/日本移動通信(IDO)のcdmaOne携帯電話では最大64kビット/秒のパケット通信サービスを提供中だが,両者ともに複数ユーザで帯域を共有するもの。一人のユーザで64kビット/秒を専有できるPHSの方が高速性に優れている。


 ただし,これらの通信サービスはあくまでもパソコンなどのデータ端末を利用することを前提としている。しかし,今や携帯電話では端末機1台でできるインターネット接続が主流。確かにPHSにも,端末機だけで電子メールのやり取りやWWWアクセスができるサービスは存在する。しかし,DDIポケット,アステルが提供している「PメールDX」,「MOZIOサービス」のWWWアクセス機能は,NTTドコモの「iモード」やセルラー電話/IDOの「EZweb」/「EZアクセス」,J-フォンの「J-スカイ」に比べて,操作性や情報コンテンツの量で見劣りする。


 またPHSのデータ通信の新しいサービスとしては,北海道総合通信網(HOTnet),アステル北陸/四国が提供している定額インターネットがある。これは,月額5000円程度の固定料金でPHSを使ったインターネット接続を実現するもの。公共性の高い電波を使っているので,常時接続とはいかないが,インターネットに接続したいときは,「いつでも,どこでも接続し放題」となる(四国は一部の時間帯のみ従量課金となる)。これは,ユーザが少ないPHSならではのサービスと言える。定額料金制では,ユーザ1人当たりの接続時間が伸びて,基地局がビジーとなる確率が高まるからだ。加入者の急増で通話のトラフィックをさばくだけで手一杯の携帯電話には,まねができない。


 もっとも,3社のほかに定額インターネットを実現できる可能性があるPHS事業者は,アステル東北と中部の2社しかいない。これらの事業者は,自社または親会社である地域系通信事業者のISDN回線を使用する「独自網型PHS事業者」であるからだ。一方,NTTドコモ,DDIポケット,5社以外のアステルは,「NTT網活用型PHS事業者」であり,定額インターネットの実現の望みは薄い。網活用型事業者は,NTT地域会社との間でISDN回線使用料を従量課金で精算しているためである。


結局のところPHSは買いか?


 最後に,こうした新世代のPHSを買うべきか否かについて言及しておこう。私は,多くの人にとってPHSの購入を検討する価値はあると考えている。実際,首都圏や関西地域の都市部に住む人にはPHSの購入を勧めている。普通に生活している限り,通話に関してはPHSでほとんど問題ないと考えるからだ。逆に音質が高い分,PHSの方が使い勝手が良いかもしれない。さらに,ノート・パソコンなどを使って外出先でもデータ通信したい人は,思い切って携帯電話をPHSに買い換えることを検討してみてはいかがだろうか。


 逆に,PHSの購入にあまり向かないのは,地方でも都市部以外に住んでいる人やそうした地域に出かける機会が多い人。あるいはiモードのような端末機単体での通信サービスを利用したいと考えている人である。また機能よりもファッション性を重視するという人にもPHSは向かないだろう。やはり,依然としてPHSには「格好悪い」というイメージがつきまとうし,端末機の質感なども携帯電話に比べて見劣りすることが多いからである。


(安井 晴海=日経コミュニケーション副編集長兼編集委員)