あるIT企業の学生懸賞論文の審査員として多数の論文を読み,学生と面接する機会があった。大学の教師として普段から学生に接して議論もしているので,若者の考え方はある程度理解しているつもりでいたが,これは世間知らずだった。

 日々,学び,生活している環境に大きく影響されて,属している大学によって学生のモノの考え方,価値観は大きく異なっていて,新鮮な驚きを経験した。

 驚きその1:技術系の学生では,自分の研究している技術について特許を申請ないし取得しているケースが多かったことである。ただし,この技術をビジネスに結びつけるノウハウが不足していて,素材のまま放置されているのが通例である。

 驚きその2:ビジネスの目的が「お金持ち」になることで,「社会貢献」という問題意識が全く見えないケースが多かったこと。ベンチャー企業とはいえ,社会的存在だ。「お金」だけが目的になれば,「金儲けのためなら多少のことはしても良い」という甘えが生じる。社会的規範を逸脱する原因である。

 このうち,「その1」についてはベンチャー・ビジネス育成の環境を整えることが解決策になる。一言で済ませるほど簡単なものではないが,国内にもさまざまなベンチャー・キャピタルが誕生しているので,糸口はつかみつつあるだろう。

 ここでいうベンチャー・キャピタルの機能というのは,資金の提供ばかりでなく,一般的経営指導,技術特許やビジネス・モデル特許の調査,ビジネス・モデルの確立の指導,特許侵害があったときの訴訟業務など,幅広いビジネス・サポートを指す。日本では後半の三つの機能が貧弱なので,この部分の補強が緊急の課題だろう。しかし,いざとなれば米国からノウハウを輸入することもできる。実際,最近は米国からノウハウを導入する方向に動き出しているようだ。

 問題は「その2」である。これは価値観にかかわるので,なかなか難しい。

 「社会的貢献」というのは,たぶんカッコ良くないのだろう。NGOやNPOと言った方がカッコ良いが,この種の活動は必ずしもベンチャー企業の本業とは相容れないように映っているようだ。

 だれを目標にするか? と聞くと,株式を公開して市場から集めた資金を本業には投じず,ひたすら他のベンチャーに投資して「賭博」をしているような話題の企業の経営者の名前を挙げる。技術開発で社会を豊かにしたわけでもない,新サービスを編み出して社会の進歩や効率化に貢献したわけでもない,ただ,技術を買い占めたり売り惜しみしたりして株価を高騰させ,株式市場で荒稼ぎしている経営者がヒーローに映っている。

 株式取引の市場が整備されて技術やアイデアを持つベンチャーに事業資金や研究開発資金が集まるようになり,日本経済に大きな刺激を与えた。しかしその資金を,社会から企業に託された資金と理解せず,経営者が金持ちになったと錯覚させてしまったことは痛恨である。

(中島 洋=日経BP社編集委員兼慶應義塾大学教授)