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 昨年7月のNTT再編から1年が経過した。そして,早くも「再々編」の議論が始まっている。1年前の再編自体は,電話中心の古い考え方の下での妥協の産物と言えるだろう。経緯やメンツなどにこだわらず,どんどん考え直すべきだと思う。しかし,今の議論を見ていると,NTT網への接続料の値下げについての日米交渉,東西NTT地域会社の経営問題,それらを含めた政治的な取引の材料としてのNTT法の改正---といった目先の問題に矮小化されてしまっているようだ。

 本来考えるべきことは何だろうか。

 私は,新技術,新サービス,新規参入者が,市場に迅速に入って来られるようにすることが最も大事ではないかと考えている。技術と競争の結果としての良質で安いサービスを,ユーザーが享受できるようにすることが,本来の再編成の目的だと思うからである。そしてそれは,インターネットとモバイルを中心に考える時期なのではないだろうか。

 7月6日付け日経産業新聞には,FCC(米連邦通信委員会)のロバート・ペッパー氏のインタビュー記事が掲載されていた。これによれば,米国では1996年の新通信法で本格的な競争を導入して以来,電話はともかくデータ通信系の新サービスへの新規参入が激増したという。ADSLや固定無線アクセスなどにCLECと呼ばれる新規事業者がひしめく環境ができあがった。ペッパー氏の住むワシントン郊外では,なんと88種類のDSLプロバイダを選択できるようになったという(日経産業新聞より)。

 日本でも,電話と有線サービスに関しては,従来の枠組みの下での話とはいえ,これまでも議論されてきた。参考になる米国の先行事例もあり,方向性には共通認識を持てるだろう。しかしモバイル,特にモバイルでのデータ通信の競争環境については,世界的に見て日本が最も進んでいるという側面があるにもかかわらず,何も議論がないまま事業者主導で進んでいる。NTTグループの経常利益8250億円のうち約5000億円はドコモが稼いでいるという事実も,モバイルを重視すべき理由の一つである。DDIグループや日本テレコム・グループにしても,モバイルは収益源である。こういった意味から,高速アクセス回線を含めたインターネットとモバイルに,もっとフォーカスした議論が必要ではないだろうか。

 では,新技術,新サービス,新規参入者が入って来やすい条件とはどんなものだろうか。これには,(1)フェアな競争環境,(2)ネットワークやサービスの機能を分離して選んで使えるようにするアンバンドル,(3)これからのユニバーサル・サービスの範囲をどう考え,それをどう実現させるか---の3点が重要になるだろう。つまり,さまざまな立場のサービス・プロバイダが,インフラを握る事業者とは違った立場からサービスを工夫できるためには何が必要かということである。

 まず,アンフェアなことができないような枠組みが不可欠である。例えば現状では,東西NTT地域会社がNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の営業部隊として機能するといったことが,特に地方では見られるという。地方の支店の営業部隊のところにNTTコムの幹部が東京から営業活動を頼みにいけば,地方の社員としては悪い気はしないだろう。NTT社員の個々の意識の中に,NTTは相変わらずの一枚岩という側面があることは否定できないのである。この感覚自体は分からなくはないが,NTTグループの競争相手からみれば,極めてアンフェアな状況が発生する可能性があると言えるだろう。実際には,東西NTT地域会社とNTTコムの間での営業的な協力は,「ユーザーの利便性を損なわないためならば」という条件が付くものの禁じられているわけではない。しかし,この条件にしても,その条件の範囲はあやふやだ。解釈のしようがあるということなのである。

 東西NTT地域会社とNTTコムの間にはサービスの面での直接的な競合がほとんどない,ネットワークのオープン化とアンバンドルが不十分,両者がグループ会社である---という現状では,別会社を意識しろと言っても難しいということだろう。別会社であること強く意識せざるを得ないような状況を作る必要があるのではないだろうか。

 次に,ネットワークやサービスのアンバンドルを進めることで,新技術と新サービス,それらを提供する新規参入者が入りやすい環境を整える必要があるだろう。国内では,ADSLは遅々として導入が進んでいないが,もし,ドライカッパーやMDF接続といった方法をはじめとするネットワークのアンバンドルが十分になされていたならば,NTTのフィールド実験後,1年半経過してわずか数百回線などということはなかったのではないか。6月末にようやく郵政省の研究会が全国でのADSLを進めるべきという報告書を公開したところだが,後手を踏んだ感は否定できない。

 とはいえ,有線のインターネットや固定電話は,アンバンドルという意味ではまだマシである。納期などを含めて本当にフェアな状況かどうかの議論はあろうが,IP接続サービスやOCNアクセスラインなどのNTT地域会社のアクセス・サービスは,NTTコム以外のインターネット接続事業者も同じ条件で利用できるようになっている。ADSLもペースはともかく,NTTグループや新規参入のサービス・プロバイダの手によって導入が進んでいる。問題はモバイルである。

 次世代携帯電話IMT-2000は,NTTドコモ,日本テレコム,DDIの3グループに電波が割り当てられた。モバイル・インターネットで多様な競争を実現するには,この3グループのインフラを使ったサービスを誰もが工夫次第で自由に提供できるべきだろう。端末もサービスも,さらにコンテンツまでも事業者が提供する現在のモバイルは,ネットワークとサービスのアンバンドルが最も進んでいない分野の一つと言えるだろう。

 モバイルを問題視するのは,ユーザー数や収益性による影響力の大きさもさることながら,電波が有限の資源であるからだ。有線のインフラは,莫大なコストがかかるし障壁も多いとはいえ,その気になれば参入できるし,NTTのインフラを借りることもある程度は可能である。ADSLが好例である。しかし,電波はそうはいかない。郵政省から電波の利用許可を得るのは,限られた事業者だけである。そしてその事業者がインフラ,端末,サービス,コンテンツを自社ブランドで提供するのが常識的になってしまっている。これらのサービス構成要素をはっきりと分けて考えられるようにしておかないと,インフラを握る事業者に全部任せる以外に選択肢がなくなってしまうだろう。こんな状況で本当に市場が発展するのだろうか。

 8月には1000万加入をうかがうまでになったiモードは,サービス内容,端末メニュー,公式コンテンツなど,すべてを事業者が決めている。今後,ユーザーの選択肢を増やせるような状況を作り出せないと,本当の意味での競争的な環境にはならないだろう。NTT持株会社の宮津社長は,「将来は,インフラとサービスとで,提供会社を分けることになるかもしれない」(7月4日付けの日経産業新聞より)と語っているようだが,これは有線に限ったことではない。モバイルでこそ重要になると思う。

 最後に,これからのユニバーサル・サービスについて触れておきたい。これまで,ユニバーサル・サービスといえば電話の世界での話だった。しかしこれからは,インターネットはもちろんADSLなどの高速アクセス・サービスまで含めて,「広くあまねく」ということの意味と範囲をはっきりさせる必要がある。ちょっと考えただけでも,次のような問題が浮かんでくる。
・ユニバーサル・サービスとして,全国一律の提供が求められるのは何か?
・電話なのか,インターネットなのか?
・インターネットだとすれば,誰がどのようにして全国に同レベルのサービスを
 提供するのか?
・アクセス回線の速度はどの程度をユニバーサルと考えるのか?
・ADSLやCATV,無線アクセスでも良いとするなら,NTTだけが義務を負うべきか?
・高コストが避けられない地方のサービスは,低コストで済む都市部の収益から
 の補填で実現するのか?
・なんらかの基金のような仕組みを考えるのか?

 とてもじゃないが,私にはここで結論めいたものを語ることはできないが,忘れてはならないのが,ユニバーサル・サービスの概念を作り上げてきた米国の基本姿勢である。それは,ユニバーサル・サービスが成り立つには,フェアな市場である必要があり,そのためには競争が不可欠だという考え方である。つまり,ユニバーサル・サービスのためにこそ,競争が必要だという理屈なのである。

 東西NTT地域会社は予想よりも収益が良い。ドコモはiモードを武器にシェアを拡大した。市外通話の値下げの先陣を切ったのはNTTコム。こう列挙して行くと,NTTを持株会社の下にグループ化したことが,結果的にNTTの市場支配力を強めたという側面は否定できないだろう。もはや競争相手としてのNCC(new common carrier)には,期待できないのだろうか。だとすれば,NTTグループ内で本当の競争が起こるような枠組みが必要なのだろうか。

 いずれにせよ,新しい技術やサービスが生まれるペースは,数年前とは比較にならないほど速くなっている。前回の再編成の時のようなペースで議論していては間に合わないのは確かである。