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 自治省の集計によれば、今回の総選挙の不在者投票者数は約550万人で、前回のほぼ2倍と大きく伸びた。しかしこの数字をもっても、投票率を大きく押し上げるには至らなかった。空模様の影響もあり、今回の投票率は62.49%と戦後2番目の低い数字を記録した。

 現在は「レジャーや旅行などで投票区外へ出かける予定がある」ことも不在の立派な理由として認められている。事実上ほとんどの人が不在者投票できるわけだ。投票率はもっと上がってよさそうなものだが、一般の人にとっては手続きのために選挙管理委員会(区役所や市役所など)に足を運ばなければならないのがネックになっている。

 インターネットを使って、旅先や自宅のパソコン、あるいは携帯電話から不在者投票できれば、投票率は飛躍的に上がるのではないだろうか。投票率が上がって政治への関心が高まれば、この国の政治の流れもずいぶん変わるような気がする。

 不在者投票にはいろいろの種類・やり方があるが、ここでは旅先で投票する場合を例に説明しよう。このケースが、インターネットを使った電子投票の仕組みとよく似ているからだ。

 たとえば東京に在住の私が、仮に出張中の沖縄で投票するとしよう。まず私は、自分の選挙区の選挙管理委員会に申請して、「不在者投票証明書」「投票用紙」「不在者投票用封筒」の3点セットを沖縄まで送ってもらう。私はこの3点セットを持って最寄りの選挙管理委員会に行く。受付で「不在者投票証明書」で本人確認をしたあと、投票用紙に候補者の名前を書いて「不在者投票用封筒」に入れて封をし、係の人に渡す。この封筒は沖縄から東京の選挙管理委員会に送付され、開票日に他の投票用紙と一緒に集計される。

 インターネットを使った投票にも、いろいろな仕組みが考案されているが、暗号技術を使った次のような方法がいちばん有望だ。

 投票者の私は、候補者の名前を書いて暗号化し(つまり封筒に入れて)、選挙区の選挙管理委員会(実際はそのサーバ)に送信する。このとき、私はいわゆる「電子署名」を一緒に付けて送る。

 この電子署名もまた、暗号の一種である。電子署名は、私しか知らない秘密の鍵番号を使って作る。そして秘密の鍵番号とペアをなす解読専用の鍵番号の方を、公的な機関に登録して公開する。この公開された鍵以外では、私の電子署名を正しく解読はできない。逆に、解読できれば、電子署名を作ったのが私であることが証明される。
 要するに電子署名とは、自宅に大切に保管した実印(秘密の鍵番号に相当)を捺印した紙のようなものだ。区役所に印鑑登録された印影(公開された鍵番号に相当)と実印を押した紙を照合すれば、本人確認ができる。電子署名は、それと同じ仕組みである。

 さて、選挙管理人(サーバ)は、電子署名で私の本人確認をする。これは、不在者投票の際に「不在者投票証明書」で本人確認した手続きに相当する。次にサーバは、私が書いた候補者の名前に(暗号技術で電子的に)一種の承認印を押す。これで、候補者の名前を書いた単なる紙が、選挙管理人の承認印が押された正式の「投票用紙」になったことになる。

 ここで大事な点は、たとえ選挙管理人といえど、封筒を開けて私が書いた候補者名を覗き見てはいけないことである。では、どうやって承認印を押すかだが、それにはやはり暗号技術である「ブラインド署名」という方法を使う。これは要するに、封筒の上から印鑑を押すと、カーボン紙のような仕掛けで中の紙に印影が転写されるような技術である。

 あとは、送り返されて来た封筒を開封して、承認印つきの「投票用紙」を取り出し、今度は投票用の封筒に入れて開票人(のサーバ)に送ればよい。選挙の場合、不正防止のために、選挙管理人と開票人は別である。電子的な投票でも、サーバは別々に分けなければならない。

 ところが、いくら封筒に入れて(つまり暗号化して)送信しても、インターネットでは送信者のアドレスなどが受信者に筒抜けなので、開封した瞬間に、誰がその候補者に投票したかがわかってしまう。これでは公正な選挙は望めない。実は、不在者投票の場合にも同じことがいえる。沖縄から私の選挙区に返送される封筒が、そう何通もあるとは思えない。この投票をしたのが私であることは、かなり容易に推定できてしまう。そんな問題が起きないよう、「不在者投票用封筒」には実はちょっとした仕掛けがある。・・・・(後編に続く)