半導体産業がこれまでの垂直統合から水平展開へと大きく変わろうとしているこの時代。より水平展開を進める動きがシンガポールで出てきた。

 シリコン・ウエーハに回路を焼き付ける前工程の分業化は,チャータード・セミコンダクタ・マヌファクチュアリング社を代表とするファウンドリという形で勢いを増している。ここ数年間の成長率は平均40~50%と,垂直統合の半導体企業の成長率20~30%よりも常に上をいく。昔からの組み立て工程のサブコントラクタも,単なる組み立てだけではなくシステム・オン・チップ(SOC)にふさわしいテストも含めたサービスを提供するようになってきた。

 アナログ回路を含んだSOCのテストを得意とするSTアセンブリ・テスト・サービス(STATS)社が日本市場を虎視眈々と狙っている。さらに,最新のフリップチップと呼ばれる超小型パッケージ技術では,前工程と後工程をつなぐウエーハ・バンプ工程だけを行うサービスまで登場した。

 こういった分業業界の平均成長率は,常に垂直統合業界のそれを上回る。1998年から2003年までの見通しも含めたテスト工程の平均成長率は,アウトソース市場が33.6%に対して,社内で行う市場では20.7%にとどまる。組み立て工程での同時期の平均成長率は,アウトソース市場が17.6%に対して社内市場は14.3%と見られている。
 なぜ,こうもアウトソースの成長率が高いのか。

 ファウンドリ,テスト,組み立て,いずれもファブレス企業やシステム企業からの注文に加え,垂直統合の半導体企業からの注文が増えているからだ。日本ならNEC,東芝,日立製作所,富士通,三菱電機などが垂直統合型,米国ならインテル,モトローラ,ルーセント・テクノロジーなどが相当する。

 では,なぜアウトソースが増えてきたか。

 パソコンをはじめとするデジタル電子機器の開発スピードが上がってきたからだ。半導体産業ではいかに短期間に市場へ出荷できるか,いわゆるTime-to-Marketが最優先されるようになってきた。自分で装置や技術を開発あるいは導入するよりも,外部のエキスパートを利用するほうが費用も納期も有利になる。加工前の結晶ウエーハから回路を焼き込んだ完成品までは1カ月以上かかるが,最新プロセス技術を導入するとさらに時間がかかる。ファウンドリでアウトソースするほうが結果的に早く完成する。

 テストと後工程は,Time-to-Marketという観点から見るとむしろ一体化しているほうが望ましい。別々だとむしろ時間がかかる。1台のテスターで完成ウエーハのテストと良品の組み立てを行い,同じテスターでパッケージに封入されたICのテストを行えばそのまま出荷できる。

 STATS社はアナログ回路の入ったディジタルICのテストを行う組み立て業者だ。ICのテストはいろいろな使い方を想定したテスト・プログラムを開発する必要がある。同社では,開発スキルを身につけたエンジニアを70名揃えているという。1995年に設立され,その売上高は平均成長率84%と半導体産業の平均成長率の4倍にも達する。
 会長であるTan Bock Seng氏は,成功の理由をこう語る。「通信分野に特化したことと,アナログ回路を集積したミクスト・シグナル技術のテスト能力が優れており,他社が追随できなかった」。日本市場は,垂直統合企業からのアウトソース業務の請負が主力のビジネスになるとみている。

 それでは,垂直統合の日本の半導体企業はどうやって成長率を高めていくのだろうか。日本の半導体産業のコア・コンピタンスは何だろうか。

 今後の民生用デジタル情報家電は,セットトップ・ボックス,ホーム・サーバー,PDA,ホーム・ネットワーク,次世代携帯電話などなど多士済々だ。しかし,どの企業も同じようなアプリケーションを口にする。何をコア・コンピタンスとして差異化を図っていくのか。

 世界の半導体産業の平均成長率と同じ程度を目標とするのなら,世界で勝つことはできないと考えるのは筆者だけだろうか。

(津田 建二=Nikkei Electronics Asia担当部長)