もう6年も前の1994年のこと。パソコン雑誌でリムーバブル・メディアの特集を担当した。2倍速のCD-ROMドライブがパソコンの標準的な装備になりつつあった時期で,大きなデータやソフトウエアの配布媒体としてはCD-ROMでほぼ決まりだった。問題は,バックアップやデータ交換などに使える媒体としてどれが本命なのかということだった。当時,候補とされていたのは光磁気ディスク(MO)やリムーバブル・ハード・ディスク(リムーバブルHD)など。
結果はご存じの通り。MOはある程度普及が進んでそれなりに使われているが,当時遅くて書き込み失敗もよくあるといわれていたCD-Rが大人気である。現にCD-Rドライブの特集は,最近のパソコン雑誌の当たり企画になっているそうだ。もっとも,ハード・ディスク装置が安くなっているので,新しいハード・ディスクを買ったら古いハード・ディスクの中身を丸ごとコピーして保存しておくという冗談のような,それでいてかなり便利な使い方も可能になった。特集の予想は大はずれである。
しかし当時の密かな本命はインターネットだった。さすがに遠すぎる話で記事では取り上げようがないので,編集後記に少しだけ書いた。高速な通信回線を使ってデータをネット上に保存するという可能性は見えつつあったのだ。今ではパソコンが普及したことやインターネットの広がりから,こうした使い方も少しずつ現実味を帯びてきている。
たとえばディジタル・カメラで撮影した写真など,画像データをインターネット上のサーバーに保管してくれるサービスがいくつも始まっている。ただ保管するわけではなく,仲間うちに公開してコメントしあったり,ハードコピーを作成するサービスも一緒に提供することが多いようだ。
ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)の考え方が個人ユーザーを対象としたサービスにも適用されるようになれば,公開目的でない文書ファイルなどもネットワークに保存するといった使い方が始まるだろう。スケジュールやアドレス帳のデータを預かって,パソコンのPIM(個人情報管理)ソフトやPDA(携帯情報端末)のデータを同期させるサービスも始まっている。
インターネットの便利な使い方を考えるときに必ず付いてまわっていた通信料金の問題もいつの間にか解決に向かっている。
定額で使い放題のダイヤルアップ接続サービスはこの2000年夏を境に常識レベルのサービスになった。プロバイダは2000円程度で使い放題,NTT東日本・NTT西日本のフレッツ・ISDNで,通信料金も定額で利用できるようになった。CATV会社のインターネット接続サービスや都市部でこの秋から本格的に始まるADSL(非対称ディジタル加入者線)接続サービスは,アナログ回線やISDNに比べて1ケタ以上速い通信速度がある。速度が10倍になれば,インターネットの使い方に質的変化を起こすことができるはずだ。インターネットはもはやどこかからデータを引っ張ってくるための単なる細い線ではなくなる。
私は自宅がADSLのサービス・エリアに入るのを心待ちにしているが,動画がスムーズに見られるといったとってつけたような話よりも,このような質的変化への期待が大きい。もっとも,あまり期待を膨らませるのはやめておく。駆け出しもいいところだった私が6年前に「有望」と取り上げたリムーバブル・メディアはMDデータだった。また大はずれになったのではたまらないから。
(斉藤 国博=日経インターネット テクノロジー)