PR

 ブームは沈静化したLinuxだが,サーバー・ベンダーの取り組みはむしろ本格化している。きっかけになったのは,「全サーバーでLinuxをサポートする」と宣言した日本アイ・ビー・エムの発表だ。ブームのときは,とりあえずおつき合い程度でLinuxに取り組んでいた大手ベンダーも「IBMは本気らしい」というので,こぞって追随し始めた。

 なかでも,日立製作所はメインフレームからUNIXサーバー,PCサーバー,パソコン,モバイル端末までフルラインでLinuxをサポートすることを9月に表明した。しかも,情報・通信グループ統括本部内に「Linux推進本部」を新設する力の入れようだ。とても,6月に米MicrosoftとWindows 2000ベースの企業向けシステムを提供する合弁会社を設立すると発表した同じ会社とは思えない。

 Linuxは主要分野がPCサーバーのOSということで,Windows NT/2000 Serverと比較されることが多い。「もはやOSを議論する時代は終わった。その上のアプリケーションやサービスなど,いわゆるソリューションに関心は移っている」という話を最近はよく耳にする。確かに,エンド・ユーザーから見れば,何ができるかが大事であって,OSの種類はどうでもよい。だが,システムを構築するインテグレータや,実際にシステムを運用・管理する人たちにとっては,サーバーOSを何にするかは依然として重要なテーマだ。

 これまで,LinuxはPCサーバー・ベンダーのサポートが,Windows NT/2000に比べ弱かった。今でも,自社のPCサーバーでLinuxをテストした結果を「動作確認」情報として提供するにとどまっているベンダーは多い。たとえば,コンパックコンピュータはLinuxの専用ページまで作り,充実した情報を提供しているが,そこには「情報はあくまで動作確認であり,動作の保証をするものではありません。このためシステムの導入運用はお客様の責任で実施していただきます」と,はっきりと断り書きが掲載されている。

 こうしたなか,一歩踏み込んだのが日本IBM,デルコンピュータ,富士通の3社だ。例えば,日本IBMのPCサーバーNetfinityの現行カタログのサポートOS欄を見ると,Windows NT Server 4.0とWindows 2000 Serverと同列に,Red Hat Linux 6.1とTurboLinux Server 6.0が記載されている。「たった1行だが,カタログに載せるかどうかPCサーバー・ベンダーにとって大きな意味を持つ。なぜならばメーカーがOSの動作を保証することを意味するからだ。日本IBMの対応としてはWindows NT/2000と遜色ないレベルになった」と,日本IBM のPCサーバー企画担当者は話す。対抗上,ほかのサーバー・ベンダーも本気でLinuxを売ろうと思ったら「動作保証」をせざるを得ないだろう。

 さらに,デルはプリインストールにも踏み切った。プリインストールは法的リスクが大きいため,各社とも腰が引けている。LinuxはフリーのOSだが,ある日開発者が知的財産権を主張し始める可能性が皆無ではない。どこかのベンダーの特許に抵触している可能性もある。もしサーバー・ベンダーがプリインストールして提供すると,訴訟の格好の標的になりかねない。

 この問題は解消されたわけではないが,デルはユーザーの利便性を優先してプリインストールに踏み切ったという。その結果,現時点でデルのPCサーバーのOS比率は,Windows NT/2000:Red Hat Linuxが5:1と,Linuxの比率が他社に比べ高い。「プリインストールによって,バンドル(同梱)して提供するだけの競合他社に比べ,顧客から信頼を得られたためではないか」と,デルは自己採点する。今後,デルの様子を見て,プリインストールを始めるベンダーも出てきそうだ。

 LinuxとWindows NT/2000を比較したとき,サポートと並んで弱いのが,アプリケーションの品揃えだ。ターボリナックスジャパンの小島國照社長も,「今後の最大の課題はアプリケーションの拡充」と認めている。小島社長は「来年半ばまでに1000本まで増やしたい」としているが,これは容易ではないだろう。ただ,サーバー・ベンダーが本気なのを見れば,アプリケーション・ベンダーもLinuxの優先順位を上げるだろう。現在,Linuxの適用分野はインターネット関連サーバーが中心だが,アプリケーションが揃ってくれば適用範囲も広がってくるはずだ。

 マイクロソフトは9月26日に,最上位サーバーOSであるWindows 2000 Datacenter Serverを発表した。マイクロソフトの目は今,サン・マイクロシステムズが独り勝ちを続ける大規模サーバー市場に向いている。もちろん,大規模サーバー市場が戦略上重要なことは理解できる。だが,本来最も得意とする小~中規模サーバー市場でのWindows 2000の立ち上げにもっと注力すべきではないだろうか。

 「Windows 2000 Serverの立ち上がりが鈍いと言われるが,NT 3.51からNT 4.0に変わったときも本格的に導入されるまでに1年近くかかったので,全く心配していない」と,マイクロソフトは言う。だが当時は,最大のライバルだったNetWareの勢いが衰え,ほかに有力なサーバーOSも見当たらなかった。今の状況は当時とは全く違う。

(桔梗原 富夫=コンピュータ局開発長)