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 2001年5月末にサービスが始まる次世代移動通信システム「IMT-2000」のビジネス・モデルについて考えた。

 きっかけは郵政省が10月26日に第3回目の会合を開いた「次世代移動体通信システム上のビジネスモデルに関する研究会」だ。この研究会は,モバイル・コマースなどIMT-2000で展開されるであろうビジネスについて議論するだけではない。先日の会合ではコンテンツ・プロバイダの立場から,彼らが望む「公正な競争条件の整備」について熱い議論があったという。

NTTドコモが世界で一番乗り

 IMT-2000とは,現在のデジタル携帯電話の次にあたる第3世代の携帯電話。データ通信の用途も見込んでおり,静止時なら最大2Mビット/秒という高速のデータ通信を実現できる。21世紀の幕開けを飾る大型サービスとして,通信業界にとどまらないインパクトを持つ。

 そして,来年5月末にサービスを始めるNTTドコモは,世界で一番乗りのIMT-2000サービス事業者になる。同社は開始時点で384kビット/秒のサービスを提供する模様。この高速移動通信プラットフォーム上で,これまでには考えられないようなサービスが続々と登場するだろう。

 例えば音楽配信。現在は携帯電話の付属機能である着信メロディ(いわゆる着メロ)の配信だけで市場があるが,ネットワークが高速化すればCDなどで市販されている音楽コンテンツも配信できる。当然,著作権の保護など別の環境づくりが必要とはいえ,携帯電話が音楽コンテンツの再生端末になる。こうした変化がIMT-2000の活用によって,さまざまな分野で起こる可能性がある。

先行メリットを生かしモデルを構築

 そして,こうしたサービスを提供するなかで積み上げたビジネス・モデルを,海外に向けて発信することも可能になる。その輸出先は,日本の次にIMT-2000のサービスを始める欧州,そしてIMT-2000のサービス計画で出遅れている米国になる。

 インターネットにおけるビジネス・モデルの多くは,この分野で先行した米国から誕生してきた。高速モバイル通信の分野では,先行者メリットを生かせる日本が,主導的な地位に最も近いところにあるといえるだろう。

 既に日本のiモードなどモバイル・インターネットでの成功は,世界中から驚きの目を持って受け止められている。これをIMT-2000という高速サービスにまで持ち込めれば,まだ先行きが不透明な日本経済の建て直しの大きな柱になるというシナリオすら描ける。

公平性の確保が最大の懸案事項に

 そこで気になるのは事業者の動きだ。例えば,モバイル・インターネットで最大のシェアを持つNTTドコモはiモードのビジネス・モデルを,そのままIMT-2000に持ち込もうとしている。これまでiモードのビジネス・モデルは,クローズゆえに成功した部分が大きい。iモードのブラウザに表示される公式メニューや料金回収代行サービスなどがその一例だ。

 公式メニューはiモードのコンテンツを紹介するもの。ブラウザが必ずアクセスするこのメニューに参加できるのとできないのとでは,アクセス数に大きな差がでる。

 料金回収代行はコンテンツ事業者に代わって,コンテンツ利用料をユーザーから回収してくれるサービス。インターネットの世界で未だ定着していない少額課金の仕組みを実現している。しかしこのサービスを提供できるのもiモードの公式メニューの座を獲得できた企業だけだ。

 しかも,モバイル・インターネットでは通信事業者自身がインターネット接続事業者(プロバイダ)を兼ねて,ブラウザの仕様も決定している。パソコンを端末とする一般のインターネットとは異なり,NTT(通信事業者)とニフティ(プロバイダ),マイクロソフト(ブラウザ・メーカー)を携帯電話事業者が兼ねている。当然彼らのコンテンツ事業者に対する影響力も強くなる。

 さらに,NTTドコモ自身が出資や合弁という手法で周辺ビジネスに触手を伸ばしている。例えばiモードのキラー・コンテンツの一つであるインターネット・バンキングの分野で,NTTドコモは「ジャパンネット銀行」に出資した。こうした動きが活発になるほど,出資先と同じ業界にいるその他の企業との公平性が保たれるかどうかという点が不透明になる。

世界レベルでの「Win-Winの関係」を築ける環境を

 たまたま一番目立つシェア・トップのドコモを中心に書いたが,この構図は同じモバイル・インターネットの環境を用意するKDDIやJ-フォンにも当てはまる。郵政省の研究会が「IMT-2000で公平な競争を実現するための仕組みづくり」を議論しているのもここにある。

 通信事業者が自らリスクを負ってビジネスを展開している以上,すべてを公平に,オープンにというわけにはいくまい。ただ,IMT-2000というプラットフォームを使おうとするすべての事業者がその実力を発揮するチャンスを妨げるようでは,世界的な競争力を持ったビジネス・モデルを日本で育てることは難しくなる。

 NTTドコモの担当者は,最近よくコンテンツ事業者との「Win-Winの関係」という表現を使う。その成功を通信事業者と特定のパートナ企業だけの,そして日本国内だけのWinにとどめてはいけない。世界レベルでの「Win-Winの関係」を築くために,公平性を持った競争環境を提供することが,IMT-2000のビジネスで日本企業が羽ばたける条件になる。

(松本 敏明=日経コミュニケーション 副編集長兼編集委員)