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 インターネット,イントラネットなど企業内外にわたる情報ネットワーク活用が急激に進み,一般企業における組織のフラット化が進行している。それに伴い中間管理職などミドルの処遇が大きな問題になり始めた。

 eビジネスは,仕事の生情報を逐一コンピュータに入力してデータベース化し,それをネットワークを通じて共有することを目指している。実際,この目標に向かって着実に歩を進めているが,こうした状況は仕事の進み具合の管理に携わる中間管理職を難しい立場に置く。中間管理職の大幅削減が可能になるからだ。これまでの仕事をこなすだけなら,「中間管理職は1/3から1/5にまで削減可能」と経営の情報化に成功したある食品業界のトップが語るほどだ。

 情報ネットワーク投資を成功させるという観点から見れば,すばらしい成果といえる。しかし問題なのは,終身雇用制を前提としている日本企業では,あまったミドルの行き場を企業内で作り出さなければならないことである。しかし,新たな雇用を創出するにしても,現実にはそれが極めて困難な状況なのだ。

 理由の一つには,景気の状況が依然として厳しく,簡単に新事業が立ち上がる環境ではないということがある。しかし,筆者はもっと本質的な問題を挙げたい。

 情報ネットワーク時代の管理職は,「企画力,分析力,判断力」が強く要求される。しかし日本企業のミドルはこれまで,「管理力,調整力,指導力」が重視されてきた。部下をフェース・トウ・フェースで面倒見る力が求められていたのだ。こうなると,管理職は現場から遠ざるを得ない。プロフェッショナルとして現場の情報を分析し,具体的にビジネスの問題解決を図る能力はどんどん乏しくなる。とても新しい事業を立ち上げるスキルは望めない。

 もちろん,こうした状況を打ち破ろうという動きは存在する。ここでは内外衣料製品の例を取り上げよう。同社の営業部門の組織は,かつて「一般社員,係長,課長,部長」という4階層だった。これを「一般社員,部長」という2階層に圧縮し,コスト削減と仕事のスピードアップを達成した。その結果,連続して増収増益を続けている。

 階層のフラット化によって大幅に管理職をカットした。これらの管理職は,「ザ・ベテランズ」と呼ぶ新設の会社に移った。ベテランズは全員が一匹狼の営業担当者として,内外衣料製品の個客開拓とフォローの仕事の一部を受け持っている。給与はコミッション方式を採用し,厳しいが成果を上げればこれまでよりも収入増が可能となる。内外衣料製品の試みは,「情報ネットワーク時代の管理職が無理なら,営業のプロとしてその力を高めよ」という企業からのメッセージである。同社の場合,これらの改革がうまく進み,着実に成果を挙げている。

 情報ネットワーク時代に問題が顕在化しているのは営業現場だけではない。システム構築を主な仕事とするSI(システム・インテグレーション)業界も,ミドルのだぶつきが経営を圧迫しており大きな問題となっている。実はSI業界の場合,事態はもっと深刻だ。

 SI業界は,第2次,第3次オンライン構築のソフト開発を請け負うために大量の採用を行った。この時期に入社した社員が現在,課長,部長クラスの大半を占めるようになった。彼らはCOBOLやPL/Iなどの言語を用いて人海戦術で汎用機の大規模ソフトの開発をこなしてきた。ところが,これらの技術と現在のインターネット技術とのあいだには,極めて大きなギャップがある。

 現場の開発から離れて管理職となった彼らに,技術革新が連続するインターネット技術をキャッチアップすることを求めるのは難しい。新規需要であるネットビジネス開発の現場を指揮することは事実上できない。かといって,これまでの領域である汎用機のソフトは,開発案件がどんどん減っていて頼れない。給料の高い管理職を抱えておくことは,とてもできない状況だ。

 では彼らに,別の道はあるのだろうか。筆者は懐疑的である。

 確かに,コンピュータ業界やSI業界の肝いりで企業のIT投資を成功させるためのアドバイザとなる「ITコーディネータ」試験が創設されることになった。これなど,SI業界の管理職には打ってつけにも思える。外野席からみれば,長い経験があるのだから,この試験に合格して付加価値の高い仕事に転換すればよさそうだ。しかし,IT投資を企画段階からサポートし,開発・運用までフォローして投資効果を生み出すコンサルティングには,ソフト開発とは全く別のスキルを必要とする。SI業界の管理職にとって,ハードルは低いとはいえない。

 前述した内外衣料製品のように「ベテランズ」の会社を作るにしても,古い技術しかもたない技術者は通用しない。しかも高給取りの集団だから,それを維持する収益を上げなければならない。絶望的な状況ともいえる。

 こうした状況になったのは,仕事を通じてプロフェッショナルを育てることを怠ってきたツケが,今になって回ってきたということだ。この問題を解決する妙案は現在のところ見当たらない。当面はそれぞれの企業が,他の部署で収益を上げて彼らを抱えておくしかないだろう。

 そのあいだに,SI企業は現場で通用するプロフェッショナルを養成する組織に自らを変革することだ。こうした方向に素早く転換してくれることを,業界を長らくみてきた筆者は切に願っている。

(上村 孝樹=コンピュータ局主席編集委員)