顧客の要求に合ったWWWシステムを短期間で開発する手段として,ソフトの部品化が2000年のホットな話題だ。

 ざっと話題を並べてみよう。6月には,サーバー・ソフトウエア向けソフト部品の開発/普及を目指すコンサルティング会社「豆蔵(まめぞう,本社:東京都渋谷区)」が生まれた。ビジネスオブジェクト推進協議会(CBOP,所在地:東京都新宿区)が定めた規格を満たすソフト部品のマーケットプレイスを運営する「コンポーネント・ベース・ソリューション(CBSK,本社:東京都港区)」が事業を始めたのは,2000年10月のことだった。

 10月にはもう一つ大きな動きがあった。日本アイ・ビー・エムや富士通が中心になって,「Enterprise JavaBeans」(EJB)に準拠したソフト部品の普及促進を狙う非営利団体「EJBコンソーシアム(仮称)」を10月6日に立ち上げたのだ。さらには,EJB部品のマーケットプレイス運営会社「EJB Bank(仮称)」が年内に事業を始める。このように,国内におけるソフト部品の普及促進を図る努力を挙げれば切りがないほどである。

 これだけ多くの企業や個人が,組織の壁を越えてソフト部品の共通化で歩調を揃えるのは,海外でもあまり例をみない(韓国では非営利団体の「Korean Consortium for Software component Promotion(KCSC)」が創設され,電子商取引サイト向けソフト部品の共通化を図っている)。

 たとえば,ソフト部品の標準仕様化が進んでいるはずの米国。筆者は,米国企業が規格に適合したソフト部品を融通し合っている話を寡聞にして聞いたことがない。何人かの米国の著名なコンサルタントに聞いてみたが,「ソフト部品の規格化/標準化は時期尚早」という答えが返ってくるだけだった。

 この日米(あるいは日韓と米国)の温度差は何なのか。以下で,少し考えてみたい。

複製の容易さが部品共通化の「大きな壁」

 ソフト部品共通化の歴史を振り返ると,ソフトウエアはコピーが容易という点が普及の障害になってきた。これまでのソフト部品共通化の取り組みでは,技術的に可能かどうか(共通仕様が実務に適用可能かどうか)が検討されることが多かった。しかし,複製の問題はさして考慮されてこなかったのではないか。このあたりが,標準仕様化で先行している米国と他の国々とのあいだで温度差が生まれた一因かもしれない。

 標準仕様や規格の策定/検討を進めている研究者やソフト開発者は,「ちょうどネジ/ボルト/ナットや一般電子部品のように,ソフトもみんなが必要とする部品を規格化する。そうすれば,多くのベンダーやユーザー企業で融通することで開発期間の短縮やコスト削減が図れる」と口をそろえる。しかしソフトウエアに,機械部品や一般電子部品のような形での部品共通化は馴染まない。

 たとえばネジ/ボルト/ナットや一般電子部品は,作るために原材料や量産設備が必要となる。こうした部品は,単価こそ安いが,規格に沿った製品を量産すること自体が価値を創出する。しかしソフトウエアは,さしたる設備を持たない個人ユーザーでも複製を作ることができる。

 UML(Unified Modeling Language)記述のオブジェクト・モデルやオブジェクトの動作記述からソース・コードを生成する開発ツールなどが存在する現在,規格に沿ったソフト部品のコーディング作業にユーザーが多くの対価を支払うとは考えづらい。この問題は,高いスキルを持ったソフト開発者がひしめきあう米国ではひときわ大きい。UNIXの公開インタフェース仕様をベースに開発したオープン・ソースのLinuxがあるように,規格化/公開仕様化されたソフト部品は単体では「無料」になるリスクを常に抱えることになる。こうしたリスクが,共通化したソフト部品の普及を米国で阻む「大きな壁」の一つとなっているといえるだろう。

 では,ソフト部品の共通化は永遠に「絵に描いた餅」でしかないのか。少なくとも筆者はそうは考えていない。

 なぜなら,ユーザーのWWWシステムを短期で立ち上げるニーズは依然高く,このためにはソフトの部品化が何らかの形で必要になるからだ。しかもソフトウエアやWWWコンテンツは,WWWシステムの構成要素の基幹をなす。規格化によって多少価値が下がっても,それを補って余りある価値が存在する。もし仕様そのものに事業面での検討が欠けているとしても,そんなことは修正を加えれば済むことだ。

 米国で進展していないソフト部品の共通化で,日本が先行する価値もあるだろう。かつて日本の自動車産業は,部品の徹底した共通化でコスト削減を進め一世を風靡(ふうび)し,経済成長の原動力となった。

 ソフト部品共通化が国内ソフト産業,ひいては日本の活性化につながれば--と思う今日このごろである。

(佐藤 康朗=IT Pro編集)