「ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)は情報システムの究極の姿」。あるシステム・プロバイダのトップは,ASP事業に積極的に取り組む理由をこう話す。一方で別のシステム・プロバイダの幹部は,「ASPなんて普及するはずがない」と,その将来性を否定する。

 電気やガスと同じように,ユーザー企業が必要なときに必要なアプリケーション・ソフトを使える情報ユーティリティ時代が来るのだろうか。その見方は,日本のIT(情報技術)サービス産業の将来像の描き方で大きく変わる。

 否定派の見方はこうだ。富士通やNEC,日立製作所,日本IBM,NTTグループによる寡占状態が今後も続くので,システム・プロバイダのビジネスモデルは変わらない。つまり大手メーカーがユーザー企業から情報システムを受注し,その一部をシステム・プロバイダが請け負う形態だ。

 ユーザー企業側も自社固有のシステム構築を望み,一から作り上げる個別ニーズに対応したカスタマイズを要求するというわけだ。人月(にんげつ)をベースにしたビジネスモデルの崩壊を恐れている企業もあるし,自らユーザー開拓することの難しさを痛感しているシステム・プロバイダもあるようだ。

 一方ASP普及派は,コスト面や開発期間の短縮,システム要員の確保の面から従来型のシステム作りは少なくなるとみる。特に中堅・中小企業や地方自治体でその動きは底固い。各企業,各地方自治体とも共通な部分は多いはずだし,それを個別にメーカーやシステム・プロバイダにいちいち発注していたら開発時間はかかるし,コストもかさむ。

 中小企業だと,1人しかいない経理担当者が辞めてしまったら,経理事務に多大な影響を及ぼす。そうした事務処理を含めて,ASPを活用する動きに拍車がかかる。情報システム要員だって1人とか2人しかしない企業も多いし,要員を確保することすら困難になりつつある。キャリアパスの問題もある。大手企業でさえ,要員を含めた情報システム部門を,コンピュータ・メーカーやシステム・プロバイダに売却する動きがあるくらいだ。

 こうした点を考えると,ASPが普及する可能性は極めて高い。自社に適したASPがあれば,それを採用するのは自然な流れのような気がする。

 ただし現状のASPには問題がある。一つは顧客のニーズにすべて対応できるサービスがまだ少ないこと。もう一つは,料金体系が不明瞭な点だ。なかには個別見積もりというものがある。競合会社との関係や市場への浸透度などを考慮して決定することになるが,サービス内容を明確にして料金をきちんと決めるべきだと,筆者は考える。さらに言えば,中小企業に対してASPの内容を啓蒙していくことも必要だろう。

 こうしたASPの現状を打開する方法は,システム・プロバイダ同士の協業である。仮に,あるアプリケーション・サービスに強くても運用管理に難があるのなら,それを武器に市場開拓しているシステム・プロバイダと手を組めばよい。複数のASPが提携すれば,顧客の満足できるものを提供できるかもしれない。

 ハード販売中心からサービスへのシフトする,そのキッカケの一つがASPである。ASPの本質は,ITサービス産業の構造変革を促すところにあるのだ。

(田中 克己=日経システムプロバイダ編集長)