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 気が付けば20世紀最後の年も,終わりを迎えようとしている。「2000年問題で大混乱が起きる」などと大騒ぎをした1年前と比べ,穏やかな年の瀬を迎えているようだ。

 さて2000年を振り返ると,開発ツール関連で重大な変化が見られた年だった。開発ツールが変わるということは,アプリケーションの動作環境や実装方法が変化することを示唆している。昔を振り返ると,Windows普及に先駆けてビジュアル開発ツールというパラダイムが登場したし,WWWベースのアプリケーション・サーバーも普及以前に対応ツールが続々登場していたのだ。

Kylix--Linuxアプリの開発スタイルを変えるか

 その一つが米InpriseのProject Kylix(カイリックスと呼ぶ)である。このProjectは一言で言ってしまえば,「Linux版Delphi開発プロジェクト」である。発表当初は2000年半ばにも製品が出る予定だったが,どうやら2000年末ギリギリか年明けに製品発表の運びになりそうだ。製品名は恐らく,「Delphi for Linux」とかになるだろうが,ここでは呼び慣れた「Kylix」としておこう。

 このKylixがなぜ重要なのか。現在,Windows用のアプリケーション・ソフト(市販されているようなパッケージ・ソフトではなく,業務用の専用ソフトや個人が自分の利便性のために使うソフト)は,Visual BasicかDelphiを使って作るのが普通だ(ちなみにDelphiというのは,Borlandファンに怒られるかもしれないが,Visual Basicに似た開発ツールである。Basicの代わりにPascalを使う)。恐らく,市販のパッケージ・ソフトもかなりの割合でVisual BasicやDelphiを使っている。また専門性の高いシステム構築には,Visual C++を利用しているだろう。

 ところがLinuxやUNIXの世界に目を向けると,こういったビジュアル度の高い開発ツールにはとんとお目にかかれない。「エディタとコマンドライン・コンパイラがあれば十分」などという,強者(つわもの)の世界だ。これでXウインドウ・システム配下で動くGUI(graphical user interface)アプリケーションを開発していたりするのだから,驚いてしまう。

 ビジュアル開発ツールというパラダイムは,GUIアプリケーションを開発するのに有効な手法であることは,Windowsの世界で証明された。Kylixが出てくれば,Linuxの世界でもVisual Basicのように「ちょっとしたGUIプログラムをお気楽に作る」ことができるようになる。これまでLinuxを使うことをためらっていた人を,Linuxの世界に誘うキッカケになる得る。

 ちなみにInprise社は,来年から「Borland Software社」に社名を変える。Borlandブランドと言えばパソコン用の開発ツールである。企業向けのシステム・ツールに注力するということで社名を変えたが,結局は昔の世界に戻ってきた,というところだろう。あるいは,パソコン用開発ツール「Turbo Pascal」でMicrosoft社と競っていた時代を,Kylixで再現しようという意欲の表れかもしれない。

VS.NET--「Webサービス」の基盤ツールになれるか

 もう一つの大きなトピックが,「Visual Studio.NET(以下VS.NET)」である。言語中立なフレームワークとか,Visual Basicがオブジェクト指向に変わるとか,話題に事欠かない。

 だがなんといっても,VS.NETの白眉はWebサービス構築の機能にある。Webサービスとは,かんたんに言えばWWWサイトをソフトウエア部品として使えるようにすることだ。

 例えば,航空会社が提供しているWWWベースのオンライン予約サービス。現在のところ,これらはあくまでもユーザーが手作業で入力することを前提としている。ある企業の総務部門が自社システムに組み込みたくても,現状では不可能である。この手順を機械化するには,ある一定の約束ごとを定めて,それに従ってシステムにアクセスできるようにする必要がある。Webサービスはその切り口を備えたサービス,ということになる。

 VS.NETはこのWebサービスを簡単に構築できる。作り方は,ごく普通のローカルで閉じたシステム構築と変わりがない。

 Windows以外のプラットフォームでは,米IBM社やアイルランドIona Technologies社など,Javaを主体としたツールが提供されている。Microsoft社だからといって,パソコンに閉じた世界ではないのだ。

 将来,Webサービスがどんどん登場してくるようになったときに,そのターニング・ポイントは2000年だったと振り返ることになるだろう。Webサービスという考え方と,それに対応したツールが登場してきたのが2000年だからだ。

(北郷 達郎=日経バイト副編集長兼編集委員)