パソコン以外からのインターネットへのアクセスが,日本では過半を超えようとしている。もちろん主役はiモードだ。
パソコンから非パソコンへという機器の変化は,同時にユーザー層の変化を伴っている。誇張して言えばガングロ・チャパツのお姉さんやその仲間たち,これがiモード・ユーザーの中心である。かれらの多くははパソコンを使っていない。ここから,インターネット文化が日米で違ってくる可能性を藤原洋氏(インターネット総合研究所)が指摘していた(「次世代IPネットワークの動向とLSIへの期待」,第4回システムLSI琵琶湖ワークショップ,2000年11月28日)。
知識人層から広まるパソコン型と大衆層に広がる携帯型
インターネットはコンピュータ研究者間の情報交換ツールとして始まった。知的レベルの高いひとたちが使い始め,それがしだいに一般層まで広まる。もちろん全員がパソコン・ユーザー。これが米国におけるインターネット文化の普及パターンである。日本も,つい最近まで同じパターンだった。しかしこのパターンでの日本のインターネット普及率は,アジアのなかでも低いほうである。
iモードが状況を変える。インターネット文化の担い手として,いきなり大衆が大規模に登場したのである。仕事も日常生活も趣味も嗜好も,従来のインターネット文化の担い手たちとはまったく違う大集団。このひとたちが,いきなりインターネット文化の主役になってしまった。その潜在的人数は,もちろん従来型ネットワーク人よりはるかに多い。ビジネスを考えるなら,この大集団を意識せざるを得ないだろう。さらにこの大集団は東アジア全域に広がりつつある。
ジャパン・パッシング vs 東アジア若者文化
いま韓国や台湾のビジネス・リーダーは日本を意識しなくなってきた。
たとえば台湾の半導体産業は米国と直結している。米国の大手半導体メーカーのほうも,日本企業を競争相手とはもはや考えていないと言う。台湾や韓国の有力企業の経営者には,米国の大学院を出ている人が多い。米国企業で働いていた人も少なくない。考え方でも人脈でも,日本よりは米国に親近感がある。
米国の産業人も,台湾や韓国の経営者のほうがわかりやすいらしい。そしてこのひとたちはみな,従来型インターネット文化に属している。日本の経営者より早くから本格的にパソコンを使いこなし,インターネットに接してきた。産業界のリーダー・レベルでは,ジャパン・パッシングが確実に進行中である。
しかし大衆レベルでは状況はまったく違う。韓国・台湾・香港などの若者は日本の若者文化を注視する。日本のマンガ雑誌は日本における納本日の3日後に中国語訳が出る。日本の若手タレントが東アジア各地で熱烈歓迎を受ける。日本の歌やファッションにもアジアの若者は敏感だ。電子ゲーム機ユーザーとしての共通性もある。
一方日本でも,たとえば同僚として東アジア人に接している若者は少なくなくなってきた。日本の食文化へのアジアの影響も著しい。東アジアには共通の若者文化が形成されつつあると言えそうな勢いである。
そしてこの若者文化圏は携帯電話文化圏とぴったり重なる。iモードが開拓した新しいインターネット・ユーザー層は,まさにこの若者文化圏の住人である。かれらが東アジアの新しいネットワーク文化を創り出して行く可能性は高い。中国本土や東南アジアも視野に入れるなら,この文化圏の住人総数はとてつもなく多い。
これは日本産業にとって大きなビジネス・チャンスとなり得るはずである。
(西村 吉雄=日経BP社編集委員)