先日,ある地銀系シンクタンクが企画した座談会に出席する機会があった。テーマは「21世紀型ビジネスモデル」。ユニークな経営システムで知られたり,オフィス用品通販で急成長している中堅企業の経営トップらと,大学教授を交えて1時間半ほど話し合った。

 そのなかで意見が最も一致したのが,「日本企業は右肩上がりの経済のなかで,顧客起点で物事を考える商売の基本が,いつの間にか曖昧(あいまい)になってしまった」という問題意識である。

 今やすっかりビジネス用語として定着したビジネスモデルは,日本語に置き換えれば「儲かる仕組み」になる。と言っても,企業の都合を優先するのではない。顧客に最適な価値を提供し,その見返りとして利益を上げる「顧客起点」という発想で築き上げたものである。

 例えば,あらかじめ利益を計算して商品の販売価格を決めるのではなく,顧客が思わず購入したくなるような価格や品質を設定し,そこから利益が上げられるようにする。そのために製造や物流といった業務を,社内外問わずに見直して,ゼロベースで新しい仕組みを作り上げる。

 こう言うと,「マーケティング的には当たり前」という反論があるはずだ。実際,モノが売れない時代だけに,少しでも低価格を実現しようと四苦八苦している企業は多い。

 しかし,ちょっと待ってほしい。本当に顧客に提供する価値を高めるために,常にビジネスモデルを見直していると胸を張って言える企業はどれだけあるだろうか。

 在庫一掃のために「9割引セール」という大英断(?)を断行した,ダイエーがその典型例だろう。そもそも「主婦の味方」を出発点とした流通の風雲児は,流通の価格破壊を実現し,消費者の圧倒的な支持を得た。しかし,やがて「儲かる仕組み」の狙いが,グループの拡大へと変わり,バブル経済崩壊とともに衰退への道を一気に転げ始めた。

 「ユニクロ」をはじめとする新興流通業に対抗するために,低価格競争に参戦したものの,一時しのぎに過ぎなかった。そうした価値を提供する仕組みが,すでにダイエーからは失われていたのだ。

 もちろん,こうした構図に陥っている企業はダイエーに限らない。「お客様第一」といった経営理念に掲げながらも,実際にはそれをないがしろにしている例はあまりにも多い。結局は場当たり的な対応策に終始して,社内や取引先のしがらみを乗り越えてまで仕組みを変えようとしてこなかった。

 しかも,業界横並びの考えが横行し,競合他社の動きばかりに目を向けてきたのが実情だ。こうした「企業起点」の発想から抜けきれない企業こそが,業績悪化に陥っているのである。

 こうした反省からもう一度,顧客起点で儲かる仕組みを再構築しようという考えが,キーワードとしてビジネスモデルを流行らせた理由だろう。

 しかし,「顧客起点」と簡単に言っても,それを実践するのは至難の業である。顧客に提供する価値を創造するには,顧客の声を聞き続けなければならないからだ。

 顧客からの電話などによる苦情や問い合わせを受け付ける相談窓口であるコールセンターを設けるのは,今や一般的になっている。しかし,その企業に不満を感じて本当に離れていこうとする顧客は,こうした窓口にすら接触ぜずに離れてしまう。

 最近,CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を導入して,顧客とのあらゆる接点における情報を一元管理して,継続的で良好な関係を図ろうという動きが顕著になっている。確かにその考えは有意義だ。しかし,CRMの対象は既存顧客が中心。潜在顧客の動向は,なかなか見えてこないのが実情である。

 それでは,どうすればいいのだろうか。

 コールセンターやCRMといったIT(情報技術)の活用はもちろんだが,そのうえで全社的な組織改革が不可欠となる。

 一つは,営業や問い合わせ窓口など顧客との接点の部署を統合し,顧客の声をもとに即座に意思決定して行動できる権限を与えることである。つまり,ビジネスそのものを顧客の声や反応に応じて動く仕組みにするのだ。

 そしてもう一つは,「顧客起点」という思想を組織に埋め込む工夫である。経営トップが全社ビジョンとして繰り返し発言するだけでなく,現場のリーダーの育成や抜擢によって,新たな企業風土を創出することがカギになる。

 どちらも意識改革が必要なだけに,一朝一夕では実現できない施策だ。しかし,「顧客起点」のビジネスモデルの必要性にいち早く気づき,有効な手を打った企業こそ,この構造不況から抜け出せる勝ち組になることは間違いない。

(神保 重紀=日経情報ストラテジー副編集長)