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 少々古い話で恐縮だが,日本のIT(情報技術)を考えたときに,ちょっと気になる点があるので紹介したい。

 2000年11月に政府は「IT基本戦略」と「IT基本法」を発表し,「IT基本法」を1月6日から施行した。情報通信技術の研究者たちはこの「IT基本戦略」をどう評価しているであろうか。

 情報処理学会の会報誌『情報処理』(2月号)に載ったエッセイ特集(文献1)を読むと,評判がすこぶる悪いようだ。その理由は,長期的な研究開発への投資と研究者・技術者育成の視点が弱いためである。

 2000年9月に,情報通信関連6学会(情報処理学会,電子情報通信学会,日本ソフトウェア科学会,言語処理学会,人工知能学会,日本認知科学会)は共同で「IT戦略会議への提言」を提出した(文献2)。当初IT戦略会議で考えられていた戦略と基本法の内容がITインフラの整備,規制緩和,電子商取引の振興などに偏っていることに危惧した学会が異例の共同提言をおこなったものだ。

 提言の中身は,ITに関する人材育成(研究開発・利用の両面),IT研究開発への国の投資,ネットワーク機密技術の開発,など7項目から成る。

 この提言がどう反映しているのか,念のために「IT基本戦略」と「IT基本法」を読み返してみた。「IT基本戦略」と「IT基本法」では,日本国内におけるITインフラ整備の遅れに対する危機感と,米国とのギャップを埋めるための早急な投資の必要性を主に述べている。研究開発の重要性にも触れているものの,具体策に乏しい。たしかに産業寄りの応急策と言われても仕方がない。

 先の『情報処理』(2月号)に複数の研究者が寄せているエッセイは実に辛辣である。

 「(5年以内に米国に追いつくという目標を達成したとしても)このままでいくと,我が国は,近い将来,あらゆる研究,あらゆる活動の根幹であるITを外国に頼らなければならなくなる」「米国では毎年,2000人弱の博士が,計算機科学・工学分野で生まれているのに対し,我が国はおよそ350人」「(欧米などの)競争相手の戦略が反映した痕跡が見あたらない」「(米国政府の技術関連文書との)あまりの落差に愕然としてしまう」。研究者の嘆息が聞こえるようだ。

 短期間にまとめられた「IT基本戦略」と「IT基本法」に長期戦略を期待するのは無理なのかもしれない。しかし本当に米国とのITギャップを埋めようとすれば,長期的な研究開発,人材育成を怠るべきではないと思う。

 インターネットの基礎技術が米国で発明されたのは1960年代末。それ以来,米国の大学や企業は営々とITの技術開発をやってきたのだから。

(桑原 啓治=日経BP環境経営フォーラム事務局長)

参考文献:
1)土居範久ほか「「IT基本戦略」を検証する」,『情報処理』,2001年2月号
2)長尾眞「「IT戦略会議への提言」提出のご報告」,同,2000年10月号