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 著作者に無断でプログラムをコピー/使用することは犯罪である。また民法上も「不法行為」を構成する要素となり,損害賠償請求の対象になる---。

 こうしたことは,今や普通の社会人なら誰もが知っていることだろう。ところが残念なことに,プログラムの違法コピー/使用は後を絶たない。警察では毎週のように違法コピーを摘発しているし,プログラム著作者が違法コピーをした当事者に損害賠償を請求することも頻繁に生じている。

 今回の「記者の眼」では,企業内における組織的違法コピー行為に対して多額の損害賠償を命じた,2001年5月16日の東京地方裁判所による国内初の判決に焦点をあてることにしよう。この民事裁判では,判決後に裁判所が記者クラブに対して「判決の要旨」をまとめた資料を配布するなど,裁判所側としても非常に力を入れた裁判である。

 プログラム著作者が違法コピーを察知し損害賠償を請求する手順は,かいつまんで言えば,次のようになる。一般的にまず管轄裁判所に対して証拠保全手続を申請する。申請を受けた裁判所は,違法コピー者に対して証拠保全手続を執行する。その上で差し押さえたパソコンなどを調査し,違法コピーの有無と手順を詳細に調べる。

 この時点で,あるいは証拠が固まったとして著作者が損害賠償請求訴訟を起こせば,ほとんどの場合に違法コピーをした者は著作者と和解する方向に歩み寄る。ところが今回のケースでは,違法コピー者が和解に応じず,ついに判決に至ったのである。

「違法コピーしても後から正規品を購入すればいいじゃないか」

 では,なぜ違法コピー者は和解に応じなかったのか。違法コピー者側の言い分はこうだ。

 「確かに,違法コピーをしてそれらのソフトを使用した。それは認める。しかし後になって正規のソフトウエアを正規の価格で,違法コピーした本数分を購入している。すでにきちんとソフトウエアの代金を払っているので,損害賠償請求に応じる必要はない」。

 法的そして一般常識から言って,この主張はメチャクチャだ。このメチャクチャな主張をバッサリ切って,違法コピー者に損害賠償を命じたのが,今回の判決である。国内初の判決であるばかりでなく,違法コピーを厳しく戒めるうえで,非常に重要な判決だと評価できる。

 この裁判の原告は,米マイクロソフト,米アドビシステムズ,および米アップルコンピュータの3社。被告は法律受験予備校大手の東京リーガルマインド(LEC,本社:東京都港区)。何と弁護士が代表取締役を務め法律家の卵を養成する予備校が,組織ぐるみで大々的に違法コピーを“展開”していたのである。

 原告3社はLEC関係者からの内部告発に基づき,1999年5月にLECの中心拠点である「高田馬場西校」に対して東京地裁による証拠保全手続を申請し,同校が使用しているパソコン219台のうち136台を調べた。その結果,136台全部から違法にコピーされたソフトが545本見つかった。その後,原告3社とLECとのあいだで和解交渉が進められたが,賠償金額を巡って決裂。裁判に至ったのである。

 さて,判決では原告側の主張をほぼ全面的に認め,LECに対し総額8472万400円の損害賠償支払いを命じた。ここで判決理由の注目点を紹介しよう。大きく分けて三つある。

違法コピーした時点で著作者に損害賠償請求権が生じる

 まず注目できるのは,損害賠償額の算定基準を「当該ソフトの市販価格」としたことだ。これに違法コピーされた本数を乗じて,賠償金額の基礎額にしている。違法コピー・ソフトに対する損害賠償額を,きっちりと“目に見える形”で示したのは,日本国内では今回が初めて。さらに弁護士費用として,この基礎額の10%を加算し損害賠償金額とした。

 また今回調査できたのは,219台のうち136台のパソコンだった。時間の関係で,全部のパソコンを調査することができなかったのだ。しかしながら東京地裁は「調査しなかった残り83台も,他の136台と同じ環境にあったことが類推できる」として,調査できなかったパソコンに対しても「違法コピーが確実に実施されている」と,損害賠償額算定の基準に加えたのである。これが注目点の二つ目。国内初の判例であるうえに,思い切った判断だといえる。

 第3の着目点は,「不正コピーが発覚した後に正規品を同数購入しても,違法コピー/利用の事実は消えない。したがって,損害賠償請求に応じるべきである」という趣旨の判断である。前述した被告側の「正規品を購入したから,いいじゃないか」という主張を全面的に退けたのである。

 東京地裁の判断はこうだ。

 違法コピーをした時点で,すでに著作権法に反する行為をしている。すなわち民法上の不法行為である。したがって後から正規品を購入したからといって,賠償に応じないという主張は受け入れられない。

 さらに言えば,「違法コピーをした」という事実と「正規品を購入した」という事実は,個別の行為として見るべきである。なぜなら違法コピーが発覚した後に正規品を購入した,というのは被告の「自由意思」に基づく行動に過ぎない。したがって「正規品を購入した」と言う事実によって,違法コピーの時点で発生している原告側の損害賠償請求権が消滅することはない。

 この判断も,もちろん国内初。しかも,違法コピー行為と正規品の購入行為を全くの別次元の話と明確に認定している点は,非常に素直でかつ多くの人が納得できる判断である。

 企業内の組織的違法コピーに対して,このような明晰な判断を下した東京地裁に対して,記者個人としても敬意を表したい。もっとも被告側は,この判決を不服として東京高裁に控訴した。

 「正規品を購入したのに損害賠償に応じるのは,ソフトの対価の二重支払いになる」との理由で。