世はまさに「ブロードバンド」ばやり。週刊誌の見出しに“ブロードバンド”という文字が踊り,新築分譲マンションの広告に“ブロードバンド対応”が売り文句として掲げられる。

 そのブロードバンド・サービスの“本命”とも呼べるサービスが8月に登場する。NTT東西地域会社が提供する「Bフレッツ」だ。NTTが90年代初めから推し進めてきた「FTTH(fiber to the home)構想」がついに実を結ぶ。

 FTTHとは圧倒的に大容量な光ファイバを一般の家庭にまで引く通信方式のこと。NTTが年間数千億円をつぎ込んで整備してきた光ファイバを生かすために,NTTが力を注いでいるのがこのFTTHサービスだ。

NTT独自技術から市販製品の採用へ方針転換

 NTT東西地域会社は,2000年末から「光・IP通信網サービス」という仮の名称でFTTHサービスを試験提供してきた。それを本格的なサービスとして衣替えしたものが8月1日に始める「Bフレッツ」である。だがBフレッツの開始は,通常の通信サービスにおける「試験サービス-->本格サービス」の流れとは根本的に異なる。同じFTTHサービスでも,光・IP通信網サービスとBフレッツは,実現方式からして一部で違う技術を採用したからだ。

 プライドを捨ててまでNTTが本気になってFTTHサービスの普及に乗り出した---。Bフレッツのサービス内容を見て筆者は率直にそう感じた。というのも,Bフレッツを始めるにあたってNTT地域会社は,長年にわたって研究・開発してきた「シェアドアクセス」というNTT独自方式の採用を,あっさりと変更したからだ。NTT地域会社は,シェアドアクセス方式に固執し続けると,3月にFTTHサービスを始めた有線ブロードネットワークス(usen)に対抗できないと判断した。

 usenのサービスは,個人向けの「HOME 100」が最大100Mビット/秒で月額6100円(インターネット接続料およびコンテンツ・サービス利用料を含む),企業向けの「OFFICE 100」が最大100Mビット/秒で月額1万1000円(同)である。

 一方,試験提供されていた光・IP通信網サービスは,「基本メニュー」(Bフレッツでは「ファミリータイプ」)が月額1万3000円,「高スループットメニュー」(同「ベーシックタイプ」)が月額3万2000円,「集合住宅向けメニュー」(同「マンションタイプ」)が月額3800円だった。いずれも最大速度が10Mビット/秒で,インターネット接続事業者(プロバイダ)に支払う接続料が別に必要になる。NTT東日本の幹部が思わず「これではまともな勝負にならない」と漏らしたのも,無理のないことだった。

独自仕様機器のコスト高が最大のネック

 では,なぜシェアドアクセス方式ではusenに対抗できないのか。それには大きく二つの理由がある。一つは通信速度。もう一つはコストである。

 シェアドアクセス方式の最大速度は10Mビット/秒。10Mビット/秒のサービスでは,先行したusenの100Mビット/秒に対抗できない。これがNTT地域会社がシェアドアクセスを取りやめた第一の理由だ。usenは,市販のメディア・コンバータを使う方式で,最大100Mビット/秒を実現していた。

 ただし,ユーザー宅まで延びる回線の最大速度が10Mビット/秒でも,最大100Mビット/秒のサービスにまったく対抗できないかと言えば,必ずしもそうではない。最大100Mビット/秒といえども,ユーザー一人ひとりが100Mビット/秒を占有できるわけではない。

 usenにしても,ユーザー宅の近隣に設置するノードで複数のユーザーを集約し,100Mビット/秒を複数のユーザーで共用することになる。このため,ユーザーが実際にどれぐらいの実効速度でサービスを利用できるかは,この集線率に左右される。最大速度が10倍速いからといって必ずしも実効速度が10倍速いとは限らない。

 NTT地域会社がシェアドアクセス方式をあきらめた最大の理由は,やはりコストだ。競争原理が働く市販品のメディア・コンバータに比べて,NTT独自仕様の機器がコスト高なのは明らか。最大速度の問題よりも,今後ますます低価格競争が激しくなるブロードバンド・サービスで,コスト高を招く機器を使い続けることが致命的になりかねないという判断が働いたとみられる。

 こうして高速化とコスト圧縮を実現した結果,Bフレッツでは,ベーシックタイプを最大100Mビット/秒で月額1万100円(インターネット接続料を除く)とした。マンションタイプも,月額料金は3800円(同)に据え置いたものの,最大通信速度は100Mビット/秒となった。

 もっとも,もう一つのファミリータイプは,シェアドアクセス方式を残した。しかしこれは,光ファイバ1心当たりのコストを対外的に明らかにしなければならないNTT地域会社が,月額6100円(同)のサービスを実現するために採った策。1心の光ファイバを4分岐させて,1加入者当たりの光ファイバのコストを下げるためにシェアドアクセス方式を使い続けた。

 メディア・コンバータ方式では,1ユーザーごとに1心の光ファイバが必要になる。NTT地域会社の光ファイバのコストは,他社に光ファイバの心線をそのまま貸し出すダーク・ファイバ料金として明らかになるが,その金額は5231円となる見込みだ。NTT地域会社がメディア・コンバータ方式で月額6100円の価格を付けるのは不可能だったのである。

Bフレッツは“買い”か?

 このようにNTT地域会社が本気になって始めるBフレッツ。NTT地域会社は,5年後の2006年3月末のユーザー数を420万と予測するなど,かなり強気の計画を立てている。しかしBフレッツは,NTT地域会社が思い描くように急速に普及するような,魅力的なサービスなのだろうか。

 これに関しては,現状では首をひねらざるを得ないだろう。Bフレッツになって,いくら料金が引き下げられるとはいえ,プロバイダ料金を含めて月額1万円程度かかるインターネット接続サービスは,個人ユーザーにとって決して安いとはいえない。しかも,個人ユーザーがBフレッツを有効に使いこなす利用シーンがなかなか見えてこないのだ。

 例えば,ブロードバンド向けコンテンツの代表格とも言われるストリーミングの動画配信でも,今のところは数百kビット/秒以下でエンコードされたものがほとんど。また,メール交換やWebアクセスが中心の使い方なら,Mクラスの通信速度はほとんど必要ない。大容量ファイルのダウンロードなどには威力を発揮するだろうが,個人ユーザーが毎日のように大容量ファイルのダウンロードを必要とするような使い方は想定しにくい。

 現状では,月額2467円という低料金を打ち出した「Yahoo! BB」などのADSL(asymmetric digital subscriber line)サービスで十分と考えるユーザーが多いと考えざるを得ない。

 ただし悲観ばかりしているわけではない。Bフレッツは,家庭での利用を想定したブロードバンド・サービスだが,むしろ中小規模の企業やSOHO(small office,home office)ユーザーに利用価値があると思えるからだ。

 例えばBフレッツは,低コストでイントラネットの構築が可能なNTT地域会社のVPN(仮想閉域網)サービス「フレッツ・オフィス」の足回り回線として使える。フレッツ・オフィスにも,サーバーを設置するセンター側拠点にBフレッツを利用できないことや,またBフレッツで接続した拠点同士で直接ルーティングができないなどの制約はある。しかし,月額1万円程度の料金で10M,100Mビット/秒の回線を利用できるとなれば,企業にとっては非常に魅力的なサービスと映るだろう。

 もっとも,利用を検討する猶予はしばらくありそうだ。Bフレッツの当初の提供エリアは,東京と大阪のごく一部の地域。しかもエリア内でも,申し込みから開通までに時間がかかるケースが少なくない。NTT地域会社といえども,光ファイバの多くはNTT局とユーザー宅の中間地点までしか張られておらず,ユーザー宅にまで光ファイバを敷設するのは容易ではないのだ。

(安井 晴海=日経コミュニケーション副編集長 兼 編集委員)

■「日経コミュニケーション」は,7月16日号で,NTT地域会社やusen,また今後,参入を計画している電力系事業者など,各社のFTTHサービスの魅力,将来性,課題などについて特集します。関心のある方はぜひお読み下さい。