ユーザー企業の情報システム部門のSE(システム・エンジニア)には,これまで以上に高い『コミュニケーション能力』が求められている --- 最近担当した特集記事の取材や執筆を通じて,強く感じたことである。

 IT(情報技術)の活用が企業戦略で重要な要素となってきた今,構築すべきシステム案件は増えるばかりだ。しかもシステムの目的は多様化し,開発期間は従来では考えられなかったほど短い。一方で,技術や製品の移り変わりは激しく,それらの情報を自社だけでキャッチアップしていくことは難しい。いきおい,外部のプロフェッショナルとしてSIベンダーなどを活用するケースは増えてくる。

 しかし,提案したシステムを構築するだけの技術力がSIベンダーになかった,業界での経験が豊富なはずだったのに話が違った,予定の納期に間に合わない・・・といったトラブルが後を絶たない。もちろん,こういったトラブルは昔からあった。しかし構築手法が多様化した今,委託先の選定はこれまで以上に難しくなっている。

 では,どうやってSIベンダーを選定し,その力を十分に引き出すにはどうすればよいのか,それが特集「外部の力の生かし方」(日経オープンシステム8月号)のテーマだった。

 結論を言おう。一番大切なのは,やはり“人”だ。外部委託では,SIベンダーが過去の経験で蓄積したノウハウを,どれだけ自社の案件に注ぎ込んでもらうかが勝負どころになる。しかし契約したSIベンダーにいかに実績があってもダメ。実際のところは,担当SEの“質”がものをいうからだ。そのSEの力量を見極め,力を引き出すことこそが今の情報システム部門に求められる仕事である。そして,その仕事を全うするためには,ユーザー企業の情報システム部門に今まで以上の『コミュニケーション能力』が求められている。

他のユーザー企業との交流,担当SEのヒアリング,社内調整,・・・

 担当SEの力量を見極めるうえでの“基本中の基本”はヒアリングである。提案内容の根拠を納得できるまで聞き,不明な点をつぶす。また外部をうまく使っているユーザー企業の多くは,積極的に事例発表の場やユーザー会に顔を出して他のユーザー企業と情報交換を進め,それをSIベンダーやSEの評価に活用している。もちろん,担当SEをヒアリングするにも,情報収集するにも,欠かせないのが『コミュニケーション能力』である。

 外部委託で失敗する典型的なケースに,「システムの導入目的が明確でなかった」というのがある。導入目的が明確でなければ,そもそもSIベンダー側は提案しづらく,見積もりも不正確になる。ここでも,エンド・ユーザーや経営者の要求や意図をきちんと把握するという『コミュニケーション能力』が必要だ。

 SIベンダーの選定が終わり,実際の開発に入ってからは,相手の力を十分に引き出すことを考える。きちんと進ちょく状況を把握し,もしも方向性がズレそうだったら早めに手を打つ。そのためにも密なコミュニケーションが欠かせない。

 また,システム化の対象となっている業務の重要性や,担当している作業の意義(影響範囲)などを事細かに伝えることで使命感をもってもらい,モチベーションを高めて成功しているユーザー企業もある。ユーザー企業は,SIベンダーに「当事者意識を持ってほしい」と口をそろえるが,その気にさせることも大切だろう。

 SIベンダーの担当SEがいくら優秀でも,身内の調整(社内調整)がうまくできなければ失敗しやすい。細かい要件定義で社内から出てくる要求の優先順位付けができなかったり,開発途中での検収作業がなかなか進まなかったりするケースだ。SIベンダーとの緊張感を保つうえで,外部を使うときには社内調整をより徹底しなければならない。

 取材で興味深かったのは,外部委託のリスクを減らすために,過去の案件で見つけた“優秀なSE”を囲い込んでいるユーザー企業が少なからず見受けられたことだ。そのために,相手のSIベンダーやその優秀なSEに対して,自社と付き合うことのメリットを強調するとともに,実際に恩恵が受けられるように配慮している。

 一方のSIベンダー側は,担当SEによる個人差をなくし,組織的に対応できるように対策を講じている。「担当者の良しあしで振り回されていてはビジネスにならない」(新日鉄ソリューションズ 産業ソリューション事業部 産業ソリューション第二部 部長 宮辺裕氏)からだ,具体的には,技術支援部隊などのバックオフィス体制の強化,プロジェクト・マネジメント専門職の認定制度や体系だったプロジェクト管理手法の導入などである。もっとも,まだまだ“人”に依存する度合いが高いのが現状のようだ。

 結局,ユーザー企業が「彼になら任せられる」と思えるSEを探せるかどうか,逆にSIベンダーの担当SEが「この人たちのところで仕事したい」と思えるかどうか,がシステム構築の成否に大きく影響する。そこでの情報システム部門の役割はとても重要だ。ユーザー企業の情報システム部門は,今まで以上に“コミュニケーション能力の向上”を意識するべきではないだろうか。

(相馬 隆宏=日経オープンシステム編集)