コンピュータ・メーカーやエレクトロニクス・メーカーの深まる苦境が,わが国の最も重要な成長の源泉であるものを立ち往生させている。松下電器産業や富士通,NEC,東芝など,各社は暗黒時代から脱出すべく,事業の選択と集中・再編,従業員のリストラなどあらゆる手を打ち出し始めた。

 そのなかで各社が共通に事業再構築や収益拡大の柱に位置づけようとしているのが“サービス化”。特にコンピュータ・メーカーでは,「米IBM社が1983年の約1兆円もの赤字から見事に回復したのはITサービスに傾注したため」とされていることを拠り所に,「IBM社を見習え」が合い言葉になっている。

 IBM社のハード保守を除くITサービス事業は,90年に売上高のわずか6%(41億ドル)だったが,2000年には32%(280億ドル)を占め,規模にして6.8倍に拡大した。また,2000年の保守を含めたサービス事業の税引前利益は45億ドルと全社の42%を占めている。ハード(27億ドル)やソフト(28億ドル)を上回り,事業セグメントで今や最大の稼ぎ頭だ。

 だが,ちょと待って欲しい。各社はこのIBM社を手本にというわけだろうが,スローガンを唱えれば現実が変わるわけではない。アスピリンのようにサービス化と叫んだら,すぐに効き目が出るほど簡単なものではないだろう。筆者には戦略・戦術の欠如が気にかかる。

国内コンピュータ・メーカーのサービス化路線に欠ける戦略と戦術

 IBM社は,85年に45万人いた従業員を大リストラの末に約10年で25万人に減らした(今は36万人)。この間に,従業員の顔ぶれもスキルも,考え方も以前とは全く異なる“新生IBM”に生まれ変わった。日本企業と同じく終身雇用できたIBM社が断行した大それた血の入れ替えが,国内コンピュータ・メーカーに可能だろうか。

 さらに,各社が見逃していると思われるのが,実はIBM社が今やコンピュータ業界の「武器商人」であるという点だ。電子部品やハードなど,いわゆる“モノ”開発に多大な投資をし,競合会社に平気で売る。部品販売やOEM(相手先ブランドによる生産)を担当するテクノロジ部門は,内需(社内向け)の3倍を外部に売るようになっている。

 そしてIBM社は,けっして製品開発の手を緩めてはいない。2001年だけでLinuxに10億ドル。2001年から数年間では,故障しても自己修復するHAL(『2001年宇宙の旅』に出てくるコンピュータ)のようなサーバー「eLiza」開発に数十億ドル,コンピューティング・パワーを使った量に応じて料金を払う「情報ユーティリティ」開発プロジェクトに約60億ドルを投資する。これらは,IBM社製のハードやソフト製品を拡販するための投資だ。

 「大きな利益をもたらすサービスは,その背景に強力な自社製品の裏付けがあってこそ実現できる」がIBM社のルイス・ガースナー会長の持論。考えて欲しい,システム・インテグレーション(SI)やアウトソーシングなどの代表的なサービス事業に,他社から調達したハード/ソフト製品を用いるのと,自社製品中心で賄うのとでは収益構造が大きく異なる。

 例えば,ITサービス市場でIBM社に次ぐ位置につけている米EDSの粗利益率は18%程度。これに対し自社製品をサービスに組み込めるIBM社のITサービス事業の粗利益率は最近4年間27%だ。約10ポイント上回り,営業利益率の段階で3~4ポイントの差がつく。ITサービスは,自社のハードやソフト製品を安価で調達可能なメーカーが有利な立場にある。

 国産メーカー各社は,この製品強化がサービス事業の強化に結実するというメーカー戦略の原点を忘れてはいないだろうか。

 最近の各社首脳の事業再構築に関する言動は,サービスの売上高比率を高めれば利益が上がる,という願望を話すことに終始しているようだ。数年前はネットビジネスを話せば株価は上がった。ネットバブル崩壊でそれができず,今度はサービスやブロードバンドで取り繕おうとする。製品開発強化というメーカーの原点強化をうたう経営者の登場を切に望みたい。

「儲かっていない」,国産メーカーのサービス実態

 サービス比率を高めようとしているメーカーが,実際にサービス事業で利益をあげているのか。それを検証してみよう。

 まず国産メーカーのサービス化率は,思いのほか高いのである。富士通の2000年度連結における保守を含めたサービス比率は46%。これはIBM社の38%を上回っている。IT事業のセグメント別の実績を公表しない日立製作所は推定48%,パソコン比率が高いNECで28%だ。

 詳細なゼグメント別の実績数値を公表し始めたNECを例にとると,ITサービスの営業利益率は99年度が5.1%,2000年度は7.0%である。同社が注力するSIサービスの利益率は99年度が0.2%,2000年度は4.8%と低く,利益安定型の保守サポートがそれを補う格好だ。IBM社の場合,粗利と税引前利益を公表している。サービスの税引前利益率は97年が10.4%,98年11.4%,99年12.8%,2000年が12.7%。

 だが99年と2000年のサービス事業は,ネットワーク・サービス部門を米AT&Tに売却した40億ドルの収益を「販管費」に計上したため利益率がアップ。通常は11%前後と見られる。こういうイベントがなければ事業セグメント別の営業利益と税引前利益はほぼ同じと見られる。

 サービス事業規模で世界第3位の富士通は「ソフト&サービス」と「ハード」で営業利益を公表している。メーカーのソフト事業の営業利益率を20%程度だと見て(※),富士通のITサービスの営業利益率を算出すると,98年度が5.5%,99年度4.0%,2000年度は3.5%となる。NECを下回り,EDS社の8~9%やIBM社を大きく下回る。しかも毎年利益率を下げている。

 また利益安定型の保守サポートの売り上げがサービスの3割弱を占めるため,NEC同様にSIやアウトソーシングなどのソリューション・サービスではカミソリの刃のような薄利状態が想像されるのである。

 実際,富士通の秋草直之社長は「サービスは元気がない。今はプロダクトが元気だ」と話す。おそらくITサービス専業の英ICLの業績不振が影響しているのだろう。英BT(ブリティッシュテレコム)と米アクセンチュアの合弁サービス会社のCEO(経営最高責任者)を,8月にICLの新COO(業務最高責任者)に据え再生をはかるが,うまくいかなかった場合,今度こそ富士通の名誉にかけた英断が必要だ。

(北川 賢一=日経システムプロバイダ主席編集委員)

※NECのソフト事業の営業利益率は99年度が31.9%,2000年度が21.2%。IBM社のソフトの税引前利益率は99年が23.1%,2000年は20.8%である。米マイクロソフトと米オラクルのソフト専業2社の営業利益率は42~44%と高い。