中堅・中小の成長企業が今,注目をしているITキーワードがERP(統合基幹業務システム)である。特に売上高100億円を超えるなど順調に業績を伸ばしている企業,近い将来に株式公開を狙う企業にとって基幹業務システムの整備は今後の飛躍に向けて欠かせない。そこでシステム再構築を短期間に実現するため,ERPパッケージを利用しようというわけだ。

 こうした市場を積極的に開拓するため,最近は国内ITベンダーから独SAPや米オラクルなどの製品より価格を安く設定した「国産型ERPパッケージ」の新製品が相次ぎ登場しており,まさに第2次ERPブームといった勢いである(詳細は日経IT21の2002年1月号を参照)。

 ITベンダーにとって中堅・中小の市場は魅力的だ。今まで売り込んできた国内の大手企業のERP市場は次第に飽和状態に近づいており,もはや大きな伸びは期待できない。そこで次の開拓先として狙い始めたのが,今後の成長が期待できる中堅・中小のERP市場だった。とはいえ中堅・中小への導入はそう簡単ではない。単純に「中堅・中小向けに製品価格を下げればよい」いう姿勢だけでは難しい。その理由は,特にERPパッケージでは導入コストの「不透明さ」に起因しているようだ。

信頼できるコンサルタントが少ない?

 価格が安くなったといっても,今までのERPパッケージの導入事例から投資額の内訳を見ると,パッケージのライセンス費は全体の10%~20%しかない。投資額の50%以上を占めるのは「導入サポート費」の部分なのである。ERPパッケージの導入では,まず自社の業務分析から始め,足りない機能はアドオン開発するなど稼働までに半年以上かかる場合が多い。

 こうした導入期間に対するITベンダーへの人件費(コンサルタント代やプログラム代など)が導入サポート費になるため,投資額を安くするには短期間の稼働が絶対条件。実際,あるITベンダーの人件費は中堅向けの上級コンサルタント代は一人で月額250万円で,中級コンサルタントでも月額180万円。これでは,せっかく安い製品を選択しても導入期間が長引けば意味がない。大企業向けの上級コンサルタントとなると1人で月額300万円~400万円になる場合もある。

 ところがコンサルタントの能力が,本当にこの価格に見合うかどうかは未知数だから厄介だ。高い代金を取るコンサルタントなら,当然「いい仕事」をするはず,と誰でも思う。特に中堅・中小となると情報システム部門を持たないケースがほとんど。コンサルタントの質を見極めるすべがないため,ITベンダーを信用するしかない。

 ところが実際の開発フェーズに入ると「どう見ても経験の浅そうな若いコンサルタントで不安だと思ったら案の定,開発スケジュールがどんどん遅れた」「それなのにコンサルタントは当社に来て一生懸命に作業している様子がない」といったケースも少なくない。これではITベンダーを信用して高いコンサルタント代を払っている中堅・中小の不安は増すだけである。しかもスケジュールが遅れる理由が明確に説明されず,導入コストとして反映されるようでは,ITの専門家でなくとも「それはおかしい」と思うだろう。

 もちろんスケジュールが遅れる理由はコンサルタントだけではなく,中堅・中小にもある。「社内の意見をまとめきれず,なかなか決断できない」というケースも少なくないし,横柄な態度で様々な要求をする中堅・中小もある。しかし,そうした状況を解決する姿こそ本来はコンサルタントの腕の見せ所になるはずだ。

 実際,ある中堅企業のERPプロジェクトでは担当者がITベンダーに抗議してコンサルタントを途中で交代させ,ITベンダーのベテランを投入してもらった結果,何とかスケジュール通りに稼働させたという。もしプロジェクト担当者が何も抗議しなければ,どうなるのか。そのままスケジュールが遅れても,中堅・中小は「システム開発とはそんなものだ」と納得するしかないのだろうか。

ITベンダーは開発リスクを背負う覚悟を

 こうした不可解な状況をITベンダーが自ら改めない限り,多くの中堅・中小はERPパッケージの導入に不安を感じて拒否反応を示すだろう。「正当な代金は支払うが納得できない不透明な代金は払いたくない」という中堅・中小の声は多い。このためにはITベンダーが自ら開発リスクを背負う覚悟が求められる。そうしないと,いつまでも開発リスクを極小化するノウハウは身に付かないだろう。

 実際,あるITベンダーではERPパッケージの価格に,ライセンス費や導入サポート費,教育費などハード以外のサービス費用を全部含めてしまい,それ以上は原則として取らない方針にした。開発リスクをできるだけITベンダーで吸収することで,中堅・中小の疑念や不安を払拭するほか,自社に開発ノウハウを蓄積するためである。これがベストな方法かどうかは分からないが,新しい方向の一つといえるだろう。

 サービス化とはサービスの内容に細かく分けたり値段を付けたりするのではなく,サービスの内容が正確に実行されているかどうかで価値が決まると思う。中堅・中小は専門のIT担当者が少ないだけに,サービスの必要性は大企業以上だ。中堅・中小の市場開拓はサービスの中身と質を低価格で提供するだけでなく,「履行責任」も強く意識しないといけない。

(大山 繁樹=日経IT21副編集長)

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