昨年末の休み中,押入れのダンボール箱をひっくり返して何年か前の『日経オープンシステム』誌を読んでみた。ちょっと思うところがあって,『プロフェッショナル,仕事を語る』というコーナーをもう一度読みたくなったからである。

 このコーナーは,4年前に私が同誌の編集長をしていたときに始めた企画だった。ユーザーとして,あるいはベンダーとしてシステム構築・運用に携わる方や,製品・技術の開発にあたる方など,いろいろな立場の方にお話をお聞きでき,今でも印象に残っている仕事である。

 私たちは日ごろ,ITプロフェッショナルの方々に,その方が担当している製品・技術やシステム構築・運用について取材することが多い。その中では,その仕事にまつわる苦労話やその仕事を始めることになったきっかけ,あるいは仕事にかける“思い”のようなものをお聞きして感銘を受けることもある。

 だかこうした部分は,なかなか記事として取り上げられる機会がないし,取材に多く時間を割くこともできない。であれば,そこだけに焦点を絞って取材をし記事にできないか,と考えて始めた企画だった。

 年の瀬に郷愁にひたりたくなったわけでもないのだが,あらためて読み直してみると,立場や表現の違いはあれ,多くのプロフェッショナルの方々が同様のことをおっしゃっていたような気がする。「Back to the Basic! 基本を大切に! 自分の根っこがどこにあるかを考えよう,それがはっきりしていれば,世の中がどう動いても,そんなにうろたえることはないでしょう?」――

プロの根っこは簡単にうつろうものじゃない

 あるデータベースの専門家は,それをこんな言葉で表現してくれていた。「汎用機だろうがUNIXマシンだろうがパソコンだろうが,CPUやメモリーとディスクがあって,みたいな基本は変わりませんよね。しょせんはノイマン型のコンピュータなんだから。やっぱり最後はコンピュータってどう動いているんだ,という原理原則を分かっている人が強い」

 Linuxのコミュニティで著名な開発者が,もとは汎用機のSEであり,今でも事務処理ではCOBOLが一番だと考えてシステムを作っている,という話を聞いたときも新鮮な驚きがあった。インターネットであるとかオープン・ソースであるとかERPだとか,世の中は新しいトレンドが登場するたびに,あたかも大革命が起こったようにはやしたてるものだ。まるで,今までの常識が全く通用しなくなってしまうかのように。だが,プロフェッショナルの根っこにあるものは,そんなに簡単にうつろうものではないのだろう。そんなことを考えさせられたのを覚えている。

 ユーザー企業の情報システム部門に籍を置くSEが,「ITそのものの知識についてはどうしてもベンダーのSEやコンサルタントにはかなわない」と悩みながら,「自社の業務や組織を把握して最適なITを考えること,あるいはITを活用して自社の業務や組織を変えていくことができるのは自分たちしかいない」,と仕事へのプライドを語ってくれたのも印象的だった。

「古くて新しい問題」への読者の関心は高い

 これらの記事をもう一度読みたくなったきっかけは何かというと,年末に2001年の『記者の眼 年間ヒット・ランキング』をまとめたことだ。下の表がそのベスト10である。

順位 タイトル 掲載日
10位 再び深刻化? ITプロフェッショナルに迫る“心の健康”問題 2001/03/22
9位 ケータイの不具合,なぜ起こる? 2001/07/16
8位 続・増える「動かないコンピュータ」 2001/05/08
7位 「電話着信時の切断は解消。ボトルネックはパソコン?」---。ADSLセカンド・インプレッション 2001/03/23
6位 よいSEにはよい報酬を,“人月いくら”はもうやめよう 2001/11/19
5位 増える「動かないコンピュータ」 2001/03/13
4位 SEやプログラマに正当な評価を
2001/05/21
3位 「やって見なけりゃ分からない」---。ADSLファースト・インプレッション!
2001/03/09
2位 これじゃ,IT革命は起こらない? 2001/02/09
1位 Windows XP ProとHomeの“隠された”違い 2001/12/03

 皆さんはどんな印象をお持ちだろうか。Windows XPやADSLなどの旬なキーワードを扱った記事が上位に登場したのは,まあ“順当”と言えるだろう。

 一方,私がちょっと意外に思ったのは,4位の「SEやプログラマに正当な評価を」,5位と8位の「 増える『動かないコンピュータ』」 ,6位の「よいSEにはよい報酬を,“人月いくら”はもうやめよう 」,10位の「再び深刻化? ITプロフェッショナルに迫る“心の健康”問題 」のように,ITプロフェッショナルの労働問題やシステム構築にまつわるトラブルなどを扱った記事が多数,ランク・インしたことだった。

 これらは言わば,“古くて新しい問題”。そのことは読者の皆さんも承知で読んでくださったようだ。書き込んでいただいたコメントを見ると,「新鮮な話題ではないけれど,問題が解決するまで何度でも書いてもらいたい」といった内容が多く,勇気づけられた。

 激動の時代だという。今までの常識はすべて捨てろ,という人もいる。でもちょっと待ってほしい。本当にそうなのだろうか? そんな言葉が“ITバブル”をあおってきたんじゃないだろうか? 確かに新しい問題はたくさんある。だけど,その前に解決しなければならない基本的な問題もまだまだたくさん残っているんじゃないだろうか? そのことを忘れてはいけないと思う。

 基本にもどる,ということは,決して後ろ向きのことではない。前に進むためにはまず基本を固めよう。プロとしての自分のよりどころをしっかり持とう。新しい技術を次々に取り入れられる人ほど,基本をしっかり固めているものだ――。ごくごく当たり前のことではあるのだけれど,古いダンボール箱をひっくり返したのは,それをもう一度確認したかったからである。

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(井上 望=IT Pro編集長)