「元気が出る人事管理」というテーマで取材を続けている。このテーマに取り組むのは2度目である。1度目は最近まで所属していた日経システムプロバイダの記者として,IT業界数社の制度を2001年12月21日号で紹介した。次回は,非IT業界を含めて一層広く見渡したうえで,日経情報ストラテジーの2002年5月号に特集記事を掲載する。

 それにしても「元気が出る人事」とはあいまいなテーマではある。例えば業績が絶好調の会社の人事制度は良い制度なのか? 本来的にはそうなのだろうが,表面的に過ぎるのではという疑念もわく。その会社のビジネス・モデルや商品が旧式化して業績が傾いたら,途端にその会社の人事制度も「元気の出ない人事制度」とみなさざるを得ないものなのだろうか?

 しかも複数の取材先からは「人事制度に100%の正解はない。例えば評価制度の透明性にしても,何割が公平と受け取るかのレベルの議論でしかない」とご忠告をいただいている。確かに,成果で実入りが増えるボーナス制度を実施しても,それで社員がどれだけやる気になるかは,その会社の社風・業態・さらには個々の従業員の気質・世代・性格によっても受け取り方が異なるようにも思う。

 結局,前回の執筆時は「人事制度の枠内だけで人事管理を論じても,一般論にできる原則は導けそうにない」と煮え切らない思いで原稿を書いていた。

 日経情報ストラテジー編集部に異動後,再びこのテーマに取り組むよう命じられ,今度は「人事部そのもののあり方・評価」にも少し視点を向けて人事コンサルタントや様々な企業幹部にお話を伺った。

人事部と情報システム部門の課題には共通項が多い

 すると,意外とすっきり課題が抽出できることが分かってきた。「人事制度の正解」を決め付けるのは困難だが,人事部の「良しあし」を論じるキーワードは存在する。

 しかもその課題というのが,IT業界の取材を続けてきた筆者にもなぜか分かりやすい。人事部の抱える課題が,筆者がこれまで感じてきた情報システム部門の課題と共通するところが多いからである。

 いくつか例を挙げよう。

●課題その1:「従業員を知らない」

 「従業員を知らない」というのは,もっといえば,従業員のやる気が上がっているのか下がっているのか,会社を好きなのか嫌いなのかも定量的に把握していない,ということだ。一部の外資系企業や超大手企業は「モラル・サーベイ」という意識調査を実施しているが,現状ではまだ一般的ではないようだ。

 私にはこの姿が「エンドユーザーを知らない,エンドユーザーを見て仕事していない」と言われてきた情報システム部の姿と重なるのである。

●課題その2:「経営的視点から制度を設計していない」

 ある経営系コンサルタントは「人事部と経営企画部の仲が良い会社には今まで一度もお目にかかったことがない」と断言した。さらにある人事コンサルタントは,「おそらく,成果主義を導入した企業の3分の2は,トップから『悪平等は良くない』と言われて受身的に成果主義制度を作っただけではないか」と指摘している。

 具体的に,どのような目標管理が長期的な経営戦略面から見て好ましいか,まで考えて制度を設計している人事部は少数派なのだという。この結果,例えば目標管理というシステムを導入したものの,その目標設定が現場の管理者と部下のやり取り任せで,「現場の目標設定が短期的なものばかりになり活気を失った」という結果につながったりもする。

 これは,経営的視点から目標管理の仕組みをきちんと事前に検討・設計していなかったからだ。私にはこの姿が「情報システム部は経営的視点を持っていない」と指摘されてきた姿と重なるのである。

●課題その3:「制度を作った後,運用・定着を放ったらかしにする」 

 例えば従来,日本企業で柱とされてきた職能給制度は,本質的には年功的な賃金制度かどうかとは無関係なはずだった。単に,時代の変化に応じて職分と職能の定義を見直す(保守)作業をサボった結果、悪者扱いされているだけだ。

 今,世間で注目を浴びているコンピテンシ(行動特性)評価や,「実力主義に基づく」昇格・昇進基準も,一歩間違えれば同じ愚を繰り返す懸念はあるだろう。私にはこの姿が「高価なSFA(セールス・フォース・オートメーション)を導入しても活用できずに終わる」などといった運用・定着フェーズで挫折を味わう情報システム部門の姿と重なって見えてしまうのである。

 このほか,「人事部は外部のコンサルタントに制度を作らせ,失敗するとそのコンサルタントのせいにしたがる」「ルーチン・ワークに追われて企画能力が弱い」などもあるが,本質的には上記3点が代表的な指摘といえそうだ。

情報システム部に続き,人事部にも改革の波が

 こうした比喩(ひゆ)のすべてが本質的だと言い切る自信はない。もちろん人事部にも反論はあるだろう。取材先から探った感触では,「トップは法務も知らずにリストラをやれという」,「労組との折衝の苦労も知らずにドラスティックな賃金制度を考えろという」といった反論がありそうである。

 しかし,コスト・センター組織のあり方として,情報システム部は「仕事ぶりが見えやすい業務部門であるがゆえに先に改革を迫られた」のであって,同様の波が人事部にもこれから押し寄せるという見方はそう間違っていないのではないかと思っている。

 すると,今後の人事部はどこへ行くのか。子会社化してやがては売却されるのか,経営企画部門の一部に吸収されるのか。少なくとも経営企画的な視点から役割を果たし,しかも「社員のやりがい」と「経営面の効果」が両立した会社を目指すなら,今後の人事管理には新たな情報収集・情報発信体制が必要になるだろう。

 こうした視点で誌上では各種ケースを紹介していくつもりである。

(井上 健太郎=日経情報ストラテジー)