モノあまり状況の中で「欲しいものがない時代」と言われるようになった。そのような状況が訪れて何年も経過しているにもかかわらず,製品やサービスを提供するベンダーの頭の中は相も変わらず,モノ不足時代のビジネスである大量生産・大量消費の論理,価値観が支配している。

 「安くて,よいモノを,不特定の人に,大量に供給して,シェアを上げる」ことに邁進し成功してきたことが,新しい時代への対応を阻害するという皮肉な結果をもたらしていると言えよう。

モノあまり時代の主役はユーザーや消費者

 未曾有の景気低迷の理由は,いくつかの原因が挙げられようが,その根底にあるのはユーザーや消費者のニーズがとっくに変わっているにもかかわらず,供給者側はそれを容認しようとしないで,再びかつての大量生産・大量消費が成立することを願って,がんこにビジネス戦略やビジネス構造を変えようとしないことが大きいのではないか。

 あるいは,変えようとしてもビジネス規模が巨大化しているために「しがらみ」が大きくなり過ぎて,変えられなくなってしまっていることもあるだろう。

 こうしたミスマッチがいっこうに解消されないと,景気の低迷はこれからも続くことになるだろう。

これまで,お客様は神様であると言われたが,それは象徴的な意味で使われたのであって,実質,市場はベンダーである供給者が握っていた。だが,21世紀,モノあまり時代の主役は,これまでの供給者側ではなくて,ユーザーや消費者側にシフトしていることに気づくべきである。

 大量消費時代のマーケティングは,市場の全体を平均化してとらえ,一律に対応することで効率アップを達成してきた。それを変えて,一社一社,一人ひとりを「個」としてとらえるために,個々の相手の状況を詳細につかんで対応していくことが求められる。

 これまでよりもビジネス効率が悪くなるが,ITの戦略的活用で乗り切る。それができなければ生き残りは難しいと考えるべきである。

 こうした認識に立ったIT活用が求められる。

サプライ・チェーンでなくデマンド・チェーンの発想が重要に

 第一に,サプライ・チェーンではなくてデマンド・チェーンの発想,つまり川下から川上に向かってビジネスの状況を詳細にリアルタイムにとらえて,その情報を共有することが必要である。

 リアルタイム・マネジメントと呼ばれる状況を創り出すものだが,「だれが」,「いつ」,「どこで」,「なにを」,「どういう理由で(購入したのか)」というような,個々の詳細な生情報を顧客と接している川下企業がつかみ,それを,リアルタイムに川上の企業に流して共有していく。これが実現することで,消費者のきめ細かなニーズをとらえて,それに直接対応するための情報が収集できることになる。

 しかし,日本の場合,直販をしている企業は極めて少なく,川上で生産したモノを川下の顧客まで届けるのに実に多くの企業が介在している。このため,末端の企業にPOSが入り,詳細な顧客情報が収集されたとしても,別企業だということで共有されずに情報はそこにとどまっている。特別の場合,例えば密な資本関係にあるとかを除くと,こうした現状はいっこうに改善されるに至っている。

 プライバシ問題を配慮しつつ,企業の壁は情報の壁,という状況を脱していかなければならない。市場環境はますます厳しくなっている。お互いの生き残りのためにコラボレーションが必要という認識で,速やかに実行すべきである。相手が頭を下げてくれば考えてもよい,というような姿勢は改め,お互いに対等の立場で協力していくことが必要である。

顧客のニーズをインターネットで吸い上げる

 第二に,インターネットを用いて直接,顧客と接触してきめ細かなニーズを吸収することが必要である。我が社は,直販しないから,インターネット直販であるBtoCは必要ない,とする企業であっても,インターネットを充分に活用して最終顧客や,取引先の個々の本音情報を収集することが求められる。

 例えば,ホームページを立ち上げて,顧客に自社の製品やサービス状況を知らせて意見を求めるとか,電子メールで直接意見を聞く,ユーザーの広場を設けて忌憚のない意見を語ってもらう,ユーザーからの質問を受け付け回答を返すとともにその内容をデータベースに格納して公開する,などさまざまなやり方でインターネットを活用できる。

 また,インターネット上にコミュニティ・サイトやナビゲータ・サイトがたくさん登場してきており,ビジネスに影響を与えつつある。こうしたサイトとも良い関係を築いて直接の顧客情報を収集していくことが重要である。

 製品やサービスのことは開発者が一番よく知っている,という気持ちは尊重するが,主役であるユーザー側の詳細な情報をつかみ,きめ細かく製品やサービスを提供していかないことには,もはや厳しい環境を乗り切れない状況であると認識すべきである。
 
(上村 孝樹=編集委員室主席編集委員)