IP-VPN[用語解説]や広域イーサネット[用語解説]などの新型WANサービスを使って,ネットワークを再構築する企業が急増している。最大の理由は,料金の安さ。従来の回線速度を数倍にしても,利用料金が安くなるケースが多い。当然,回線速度が速くなれば,今までできなかった新しいアプリケーションが登場する可能性は高い。動画を駆使した業務システムも夢ではないだろう。

 ただ,今回の“変わる”は,こうした表に出る華々しい変化ではなく,企業ネットワーク・システムの構築プロセスや設計,運用管理にスポットを当ててみたい。ネットワーク担当者にとっては,導入時に直面する最も身近で間近な変化だからである。今までの常識が通用しないことも多い。

◆構築プロセスと設計が変わる
――綿密なキャパシティ予測が不要に

 従来の専用線[用語解説]やフレーム・リレー[用語解説]の場合,回線料金が高いため,回線速度をいかに最小限に抑えるかが常識だった。

 このため,まず必要だったのは,アプリケーションごと,拠点ごとに必要な回線速度を割り出すこと。こうした細かな回線速度をベースに,センター拠点などの回線速度も決めていた。つまり,計算し尽くされたネットワークだったのである。

 こうして決めたネットワーク構成を基に,ネットワーク機器を設定し,稼働,運用管理のフェーズへと入る。綿密に計算されたネットワークなら,ネットワーク監視は障害監視だけで済む。

 これに対し,新型WANサービスは,高速な回線が安価に手に入り,しかも料金が距離に依存しない。比較的小規模な拠点でも,バースト性の高いデータ伝送を考慮して,速度に余裕のある回線を引き込んでおける。このため,綿密な回線速度の割り出しは必要なくなる。

 その代わり,新型WANサービスのメリットを生かすためには,常にネットワークを監視し,運用状況を見ながら見直すプロセスが必要になる。

◆ネットワーク監視が変わる
――回線の中身を把握してネットワークを柔軟に変更する

 回線速度に余裕のある新型WANサービスなら,新しいアプリケーションを容易に乗せられる。また,パスの概念がないため,拠点の追加も容易である。「新型WANサービスを使ったネットワークはまさに“生き物”のよう」と言うインテグレータもいるほどだ。

 こうした柔軟性を生かすために重要になるのが,ネットワークの監視範囲。従来型ネットワークでは流れるトラフィックの監視は必要なかったが,新型WANサービスではアプリケーションの種類まで把握して監視する必要がある。

 理由は二つ。一つは,バースト性の高いトラフィックから基幹業務系[用語解説]のトラフィックを守るため。そしてもう一つは,前述したようなネットワークの見直し作業のための基本データを得るためである。

 回線の中身を把握していなければ,適切な見直しはできない。どんなデータがどれだけ流れているかを把握した上で,どう帯域を制御するかを決める。新型WANサービスは,拠点の追加だけでなく,回線速度の変更も容易。場合によっては,回線容量の増強も考えることになる。

◆サーバーの配置が変わる
――集中配置で運用コスト削減を目指す

 速くて安く,距離に依存しない新型WANはサーバーの配置も変える。ATM専用線[用語解説]やエコノミー専用線の登場で,基幹系システム[用語解説]のサーバー群はすでに集中配置している企業も多いだろう。しかし,情報系システム[用語解説]を中心に,ある拠点間に閉じたシステムでは,部門サーバーを設置するのが一般的だった。

 ただ,このような分散型のサーバー配置には,部門サーバーの運用管理に手を焼く,という弊害がある。システム部員ではない現場の人員に,業務の合間をぬって面倒を見てもらうか,現地に人員を張り付けるか,はたまたシステム部員がトラブルのたびに現地に駆けつけるか。いずれにしても,運用管理の負荷は大きい。

 新型WANなら,回線速度に余裕があるため,これまで基本的には拠点で運用していた部門サーバーまでセンター拠点に集中配置できる。運用管理の負荷は大きく軽減するはずだ。

◆バックアップが変わる
――回線の冗長化に注意し,センター拠点の信頼性を向上させる

 その一方で,サーバーの集中配置はセンター拠点の重要度を今まで以上に押し上げる。センター拠点の障害は,回線であれ,機器であれ,即座に業務停止につながる。部門サーバーまで集中配置した場合,拠点内のコミュニケーションすら取れなくなる可能性がある。

 機器の耐障害性の確保は,様々な手段が現状でも考えられ,比較的容易にできるだろう。新型WANで難しいのは,回線の冗長化だ。同一事業者ですべてのネットワークを構築する企業が多いため,事業者の網や局舎に障害が発生すると,2回線引いてあっても意味がない。

 そこで考えられるのが,センター拠点などの主要拠点間には,もう一つ別の事業者のサービスでも結んでおく方法。トラフィックの分散にもなる。

 新型WANサービスは,中小拠点のバックアップも変えそうだ。これまでバックアップの定番と言えばISDNだった。信頼性も高く,サービス・エリアも広い。64k~128kビット/秒で接続する拠点なら,ISDNで十分だったからだ。

 ところが,中小拠点にもメガ・クラスの回線を使うケースが少なくない新型WANでは,ISDNでは容量不足。バックアップとして機能しない拠点が続出する可能性がある。すでに,ISDNに見切りをつけて,ADSL[用語解説]をバックアップに採用する企業も出てきた。

◆システム部門のあり方が変わる
――アウトソーシング化で企画や調達に専念

 これら以外にも,「ルーター[用語解説]はレンタル」,「障害監視などルーチン化できることは外部委託」などが新常識となりつつある。いずれも,新型WANサービスが一種のネットワーク・アウトソーシングであることの延長線上で出てきたものである。

 前者によって,これまでの機器調達は一変する可能性がある。後者によって,システム部は企画や調整に専念できるようになる。新型WANサービスは,企業のネットワークの形態を変えるだけでなく,システム部門の業務形態やあり方まで変える可能性がある。

 
(小出 由三=日経コミュニケーション副編集長)

日経コミュニケーション2002年3月18日号の特集「新型WANのパワーを引き出す 運用管理六つの極意では,先行ユーザーの事例を交え,こうした変化と対応策をまとめました。