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 企業が抱える様々な問題の根っこをたどると,「組織の壁」に行き着くのではないか――。様々なテーマで取材をしているが,そのたびにこんな思いを強くしている。

 例えば,情報システム関連では部門最適の問題が長年つきまとってきたし,いまだに解決しきれていない。システム部門と利用部門の間でも,情報化投資の効果が当初の計画通りに上がらないことをめぐって責任転嫁が繰り返されてきた。どちらの場合も縦割り組織の壁が相互理解を妨げ,適切な業務の遂行を阻害している。

 最近では,日経情報ストラテジー5月号の特集「在庫はなぜ減らない」で企業が抱える過剰在庫にスポットを当てたが,ここでも間違いなく組織の壁が事態を悪化させていた。

在庫が減らない理由とは

 過剰在庫はなぜ生まれるのか。需要予測そのものが外れたのかもしれないし,調達担当者がメーカーからリベートを引き出すためにあえて大量に仕入れたのかもしれない。原因は様々に考えられるが,基本的には組織の壁による弊害だ。

 最も典型的な例を紹介しよう。ほとんどのメーカーでは販売部門(営業)と製造部門(工場)が協議して,需要予測や販売計画を基に製品の生産計画を立てる。この会議は製販会議と呼ばれ,在庫をコントロールするうえで最も重要な役割を担う。

 ところが,最近のように需要がダイナミックに変化する環境では,この製販会議が正常に機能しないのだ。

 販売部門が最も嫌うのは欠品である。多少在庫が膨らんだとしても,販売機会を失うよりはマシだと考えるから,製販会議では常に多めの生産を主張する。万一,販売計画が狂って過剰在庫を抱える事態になっても,それをグループの販売会社に押し込んでしまえばいいのだ。一見,販売部門が持つ在庫は一掃されるし,売り上げも立つから一石二鳥だ。

 一方,製造部門は販売部門の甘い見通しに眉をひそめながらも,あくまで決定権は販売部門にあるという立場を崩さない。最終的に「営業に押し切られた」という言い訳ができるからだ。

 かわいそうなのは在庫を押しつけられた販社だが,幸か不幸か販社まで含めたグループ全体の在庫をリアルタイムで把握できる企業はほとんどない。組織の壁によって,情報が途絶しているからだ。そのうちに,在庫も徐々に掃けていく。誰も責任を問われずに済む。この繰り返しである。

 販売部門に押し切られる形で製造部門が生産計画を決定する様子は,「利用部門の言う通りにシステム化したのだから,責任は果たした」とする情報システム部門の体質に通じそうだ。販売部門が在庫をグループ販社に押し込んで知らぬ顔を決め込むところは,情報システム部門がシステムを稼働させた後はその成果を問いたがらないところと似ている。

責任の所在をあいまいにしたまま,組織がそれぞれの利益を最優先する構図である。

責任の所在を明確にすることから始まる

 情報化投資と在庫管理。全く異なる経営テーマだが,本質的な部分では共通するところが多い。ならば少々乱暴な論理かもしれないが,各企業が在庫問題を克服した手法から情報化投資を正常化するカギが見えてくるかもしれない。

 在庫削減の突破口になったのは,責任の所在を明確にすることだった。キヤノンが導入した連結会計は,その好例だ。同社でもかつては,グループ販社への在庫押し込みが少なくなかったという。

 そこで96年に連結会計を導入し,各事業本部は販社が持つ在庫まで責任を持つ仕組みに変えた。それまでのように販社に在庫を押し込んでも,連結ベースで見れば在庫量は減らず,したがってキャッシュ・フローも改善しない。このことが「嫌でも見える」ようになって初めて,抜本的な在庫削減が進んだという。

 ソニーも,グループ内の在庫の持ち方と責任の所在を根本的に変えることで成功した。昨年9月の米テロ・ショック以降,世界的な景気後退の影響で,電機各社の在庫は急激に膨らんだ。事情はソニーも同じだ。ところが,その後が違った。テロのショックが覚めやらぬ2001年12月末には早くも,在庫回転日数が1カ月台前半まで改善。松下電器産業など他の電機メーカーに比べ,ずば抜けた圧縮スピードを見せた。

 牽引車になったのが,昨年4月にソニーの製造拠点を独立・統合して設立した製造子会社,ソニーイーエムシーエス(ソニーEMCS,本社東京)だ。グローバルの販売・在庫情報は,すべてソニーEMCSにフィードバック。これを基に「いつ,どの製品を,いくつ作るか」は同社が判断し,結果として生じる在庫の責任も同社に一元化する。権限と責任があいまいになりがちな製販会議に頼らず,在庫コントロールの権限と責任をソニーEMCSに集約したことが効いた。

 在庫削減の事例から情報化投資のあり方を云々すること自体がおかしいという意見もあるかもしれない。だが,縦割り組織がもたらす弊害を解消するには,責任体制の見直しは不可欠だ。同時に,権限委譲と評価制度の改革も欠かせない。これらは組織の壁を突き崩すだけでなく,あらゆる分野で問題解決のきっかけになると思う。

(花澤 裕二=日経情報ストラテジー副編集長)