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 Linux市場のリーダー的存在,米Red Hatの日本法人であるレッドハットは2002年5月下旬,企業システムに向けた専用のLinuxディストリビューション[用語解説]「Red Hat Linux Advanced Server」(以下Red Hat ASと略記)を発売する。全般的に,実績を持つやや古いソフト群で構成するほか,バージョン・アップ間隔も1年~1年半とこれまでより大幅に伸ばす。導入および構築/運用に関する年間サポートが付いて,価格は10万円程度の予定だ。

 今後は,Red Hat Linux7.2など従来から販売(およびFTP版を配布)してきた系列をコンシューマ向けOS,Red Hat ASを企業システムのサーバー用OSと位置付ける。そして,パートナ企業がシステム構築に利用したり,コンピュータ・ベンダーがプレインストールして出荷するディストリビューションをRed Hat ASに限定する。

 これにより,組み込みシステム向けを除く同社のLinuxディストリビューション関連ビジネスの基軸が企業向けのRed Hat ASに移る。果たして,この戦略が市場に受け入れられ,Linuxによる企業システム構築が活発化するだろうか。それを占う上で,どのような点に着目すべきか,をまとめてみた。

業務系システムへの浸透が鈍い3つの理由

 Linuxは登場してから,すでに10年以上たっている。(Linus B. Torvalds氏は1991年にLinuxバージョン0.01を開発)。日本では,まず1999年中ごろから個人ユーザーに注目され,企業ユーザーがそれを後追いする形で利用し始めた。

 現状,WWW(World-Wide Web)やSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)/POP(Post Office Protocol)などのインターネット系サーバーに広く採用されている。しかし,アプリケーション・サーバーやDBMSサーバーなど,いわゆる業務系サーバーのOSとしては,ゆっくりしたペースでしか浸透が進んでいない。

 業務系システムへの浸透が鈍い理由はいくつかあるが,特に大きな障壁となっているのは,以下の3つだろう。

(1)検証/実証の不足:業務系システムは長期間使う前提で開発され,安定性が重要なキーワードとなるのが普通である。一方,Linuxを中心としたオープン・ソース[用語解説]のソフトウエアは極めて短いサイクルで開発/改良が進められており,動作が不安定なうちに次バージョンが出てくることも珍しくない。開発があくまでも個人に支えられているので,規模が大きくなると個人やコミュニティでは検証/実証が困難になる。開発者たちの意向によっては,安定性に対する配慮よりも,先進性や革新性が重んじられることさえある。

(2)導入や運用コストが著しく低いとは限らない:一般的に業務システムは,Webやメールといったインターネット系のシステムに比べ,複雑な処理を伴うことが多い。そうした場合は,システム構築費用全体に占める,ハードウエアやOS,各種ソフトウエアのコストの割合が相対的に下がる。無償で利用できるオープン・ソースのソフトを活用して,OSや各種ソフトウエアの費用を削減したとしても,設計や開発,検証などの作業には商用ソフトを用いた場合と同等(あるいはそれ以上)のスキルや手間を求められるので,全般的にはコスト低減効果が高いとは限らない。

(3)オープン・ソース・ビジネスが不透明:オープン・ソースがビジネスとして成り立たないようだと,ユーザー企業としても安心してオープンソースのソフトを採用できない。オープンソースに投資している企業は,レッドハットやターボリナックス ジャパンなどLinuxディストリビュータだけではなく,日本IBMや日本SGI,日本オラクルなど多岐にわたる。現状,そうした取り組みどれもが手放しにうまくいっているとは言いがたい。うまくいっているケースで,収支均衡というのが実状である。

Red Hat ASは3つの課題をクリアできるか

 話をレッドハットの企業システム向け新ディストリビューションに戻す。Red Hat ASは前述の3つの問題にどう向き合っているのか。

 (1)については,安定性を指向して全般的に実績を持つやや古いソフト群を採用し,バージョン・アップ間隔を伸ばすことで対処している。このような取り組みは,すでに他のディストリビューション(Caldera OpenLinuxやTurboLinux Serverなど)により実践され,一定の成果が出ている。

 また,新たにバンドルしたオープン・ソースの共有ディスク型高可用性クラスタ・ソフト[クラスタの用語解説]では,開発チームの主要メンバーを米Red Hat社が直接雇用して社内開発に近い体制を築き,より綿密に検証や実証をしたという。

 (2)については,導入サポートにとどまらず,構築/運用サポートを提供することで,ユーザー企業のTCO[用語解説]が下がると主張する。

 (3)については,レッドハットの場合,組み込み系のOSや開発ツールのラインセンス売り上げのほか,各種トレーニング・ビジネスが軌道に乗り始めた2001年の後半から,収支がプラスに転じたようである(ただし,Red Hat ASを含むディストリビューション単体では,当分は利益が出ない模様だ)。

 このように,Red Hat ASは大枠では,企業システムのサーバーOSとして市場に受け入れられる素地を持っている。ただし,(1)についてはどこまで本腰を入れて社内で検証や実証実験をするか,(2)では高品質なサポート・サービスを切れ間なく提供できるかがポイントになる。レッドハットにとって,正念場となりそうだ。

(手島 透=日経Linux)