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 システム監査技術者は20万4300円,プロジェクトマネージャは20万2500円,システムアナリストは17万6700円――。IT関連企業が,公的資格である「情報処理技術者」に支給している取得一時金の平均額だ。

 日経システムプロバイダ編集部が,大手のシステム・インテグレータなど118社を対象に実施したアンケート調査で判明した結果である。最高で70万円超の一時金を賞与しているシステム・インテグレータもあったほど,その奨励策は手厚かった(詳しくは,同誌5月10日号特集「いる資格,いらない資格」を参照)。

 一方,マイクロソフト(MCSEなど)やオラクル(ゴールドなど),シスコ(CCNA)といった民間企業が実施するIT資格(ベンダー系資格)に対する取得一時金の平均額は数万円。最高額を見ても20万円止まりで,情報処理技術者とはかなりの開きがあった。民間の任意団体が実施している非ベンダー系と呼ばれるIT資格に対して,積極的に取得を奨励している企業はさらに少なかった。

「新製品,新技術との追いかけっこに疲れた」

 一時期は時代遅れと指摘されていた情報処理技術者だったが,神通力は衰えず,逆にベンダー資格の必要性はさほど強くないことが分かった。ある大手システム・インテグレータの幹部は,ベンダー資格について,こう語る。

 「確かに,ベンダー系の資格取得に大号令をかけた時期があった。有資格者が数多く社内にいれば,そのベンダーから優良なパートナとして認めてもらえ,大型のプロジェクトを任されやすくなる。さらに,単価の上昇も見込めたからだ」

 特定の製品に関する技術的な知識が必要であることは言うまでもない。ベンダー系資格の取得にもそれなりの意味はある。だが,その製品の市場価値が薄れるとアッという間に資格も陳腐化する。新技術や新製品が矢継ぎ早に登場する昨今,そのたびにその資格を取得しなければならなくなる。

 この幹部は続けて,「この追いかけっこに,正直疲れた。それに,実際のビジネスにどのくらい役立っているのか,正確に検証しにくいのも事実。それだったら,もっと普遍的な情報処理技術者に軸足を置く方が,企業の体力向上につながるのではないか」,とベンダー資格を重視する姿勢を改めた理由を語る。

 このように,目先のトレンドに押し流されずに,息の長い技術知識を重要視しようという動きが見られる。

じっくり考えられる技術者がシステム・インテグレータを支える

 筆者は,本来なら技術者が“知っておくべき技術”も,製品・技術の目まぐるしい変化への対応が優先されてしまい,“知らなくてもいい技術”として軽視されてしまっている気がしている。少し前のこのコラムにもあったように「なぜコンピュータが動くのか」とか「プログラミングの考え方」といった基礎について,じっくりと考えられる時間がなくなっているのかもしれない(関連記事)。

 結果として,表面的な最新技術の知識習得に終始し,根本から考え直して答えを導き出すといった問題解決に役立つ知識や考え方が,欠乏しつつあるのではなかろうか。そんな懸念がある。

 ある企業のCIO(情報担当役員)はこう言い放つ。「新卒や中途採用などで面接していると,ベンダー系のIT資格はいくつか持っている技術者は多いが,技術を深く理解している技術者が少なくなったと実感する。彼らが修得している知識は底が浅く, 3時間くらい勉強すれば理解できる程度でしかないこともある」。このほかにも,技術者が持つ技術力の底の浅さを心配する声をよく聞く。

 現場で鍛えるOJTにも限界がある。日常業務の忙しさにかまけて,案件をこなすだけの技術者では,自分の仕事の領域でしか技術力を得られない。トラブルが発生したときに,何が原因で,どうすればいいのかといった原因を追及する場面などでは,コンピュータ技術について根本から知っている必要があるはず。また,原因究明に役立つ論理的な思考方法も,付け焼き刃では得られない。

 企業情報システムはネットワークを通じて複雑に絡み合い,一つの技術だけで完結する時代ではなくなっている。これが,こうした基礎知識や思考方法を身につけるのをますまず難しくしている。そのようななかでも,地に足を着けて物事を考え,堅実な見通しとハッキリとした意見を持って行動できる技術者は,みずほ銀行のようなトラブルを回避,あるいは解決する上で,力を発揮できるだろう。

「お受験」体質から脱却し,技術者育成のための体制作りを

 そうした理想の技術者像を求めて,セキュリティに強いある企業に話を聞きにいったところ,「自社にとってかけがえのない“虎の子”技術者の顔を出した記事は困る」と言われたことがある。ヘッド・ハンティングの格好の材料になってしまうというのが,その理由だった。

 確かに企業の根幹は人材だ。しかし,IT業界を含め,雇用環境が変化している現状,人材の流動化を止める手だてはない。いずれ,プロジェクトごとに社内外から一時的に技術者を集めるやり方が一般的になる可能性もある。

 それならば,有能な技術者をつなぎ止めておけるだけの魅力ある企業になるしかない。技術者のスキルを正確に把握し,適切な評価ができる人事制度や給与体系を構築することが課題となる。その一つの指標として,様々なIT資格が用いられるだろう。資格だけで技術者の力を判断できないのは事実だが,その技術者の指向性や知ることへの態度などについて,一定の認識は得られるからだ。

 ただし,技術力を誇るためだけに資格者数を集める「お受験」的な技術者育成戦略からは脱却しなければならない。同じ投資をするなら,「IT資格など必要な時に受験さえすればいつでも取れる」というくらい充実した社内教育制度を確立する方が,何十倍も価値がある。

 新しい成長を遂げるこれからの10年を迎えるために,IT業界の技術者育成体制を見つめ直す良いチャンスなのではないだろうか。

(渡辺 一正=日経システムプロバイダ編集)