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 会社の中にはいろんな情報資産が眠っている。キャビネットにしまわれた過去の仕事の報告書や図面,個人の机やパソコンに帰属する資料や電子メール,名刺・・・。もろもろの情報を“どう使うか”という観点で再整理すれば,新しいビジネスの種が見えるのではないか。

 日経IT21の7月号で「社内の情報整理術」という特集(概要を日経IT21のサイトで紹介)を企画するに当たり,取材班はこんな仮説を持って,全国の中堅中小企業の取材に飛び出した。しかし早々に厳しい現実を目の当たりにする。

 情報の整理,共有に積極的に取り組む企業は多かった。しかしその目的は「新しいビジネスの種を見つける」などというバラ色の未来ではなく,いかにして「今の顧客を引き留めるか」という必死の“守り”だったのだ。

「放っておけば顧客は取られる」

 「10年前なら,“いったん獲得した顧客にはなるべく手をかけず,新規顧客の開拓にエネルギーを割く”というのが常道だったが,今は逆。放っておけば顧客は取られる。顧客を逃がしたくなければ,こまめにフォローしていくしかない。そのために顧客に関する情報を整理,共有し,次の一手につなげなければ」

 横浜市郊外でLPガスやガス器具の販売に携わるカナジュウ・コーポレーションで経営企画室長を務める馬場幸夫さんの言葉だ。地元に根ざした“ガス屋さん”として安定した業績を維持してきた同社も,近年激しい競争に巻き込まれ,顧客の維持に苦慮している。

 都市ガスのサービス範囲拡大という脅威に加え,頭が痛いのが“ブローカー”の存在だ。LPガスの利用者に対し,「現行の半額で利用できる」といったセールストークを武器に切り替えを打診し,他のガス器具販売店などにその商権を転売する。

 ブローカーは特定地域をローラー作戦で回って切り崩しを図る。守る側のカナジュウ・コーポレーションにとっては,ブローカーが訪れた顧客をいち早く発見し,引き留め策を講じなければならない。

 そこで威力を発揮するのが,ガス器具の修理などに携わるサービス担当者の業務日誌だ。「顧客へのインタビュアになれ」という方針のもと,サービス担当者は顧客と交わした会話の中から,ブローカーなど競合の訪問状況や,カナジュウのサービスに対して顧客が抱く不満など読み取り,逐一日誌に書き入れる。

 本部ではこの情報をデータベース化し,「離れていく可能性の高い顧客」に対して無料清掃などの手厚いサービスを提供することで,引き留めを図るのだという。

「顧客のことを顧客以上に知る」

 情報の収集,整理によって守りを固めるのは,同社に限った話ではない。顧客が注文した製品の仕様書をすべて蓄積し,どんな問い合わせにも即時に答える。さらには蓄積した情報を分析して顧客に助言をする。今回の取材ではデータベースや文書管理ソフトなどを使って,地道に情報を整理,活用することで,顧客との結びつきを強める例も多かった。

 東京都大田区で部品製造業を営む市村金属もその1社。過去に発注のあった製品に関し,仕様や製造工程を記した伝票を文書管理システムで管理している。顧客から再度発注があった時,前回と寸分違わぬ製品を製造するためだ。「5年前に作ってもらった部品を追加発注したい」といったあいまいな要望にも即時に答えられる。

 実は文書管理システムを導入する以前から,同社では過去の伝票をすべてファイリングし,追加発注に対応できるようにしていた。「顧客の要望にすぐ答えられなければ,取引を失う。中小企業なら,過去の取引の情報を整理して保管しておくは当然」。システムの運用を担当する高橋岳之さんはこともなげに話す。

 「紙で保管して人手で探すのに比べ,システムを使えば速くて場所も取らないというだけ。顧客のことを顧客以上に知るために情報を整理しておく,という本質は変わらない」(高橋さん)

 “景気の底入れ”宣言が出された今も,多くの中小企業にとってまだ状況は決して明るいものではない。だが情報整理に取り組む各社は,「仕事が暇な今だからこそやれる」と口をそろえる。景気を言い訳にせず,次の飛躍の機会を狙って守りを固める前向きな姿勢に,日本を支える底力を見た思いがした。

(小林 暢子=日経IT21編集)