経営環境が厳しくなるなか,中堅・中小企業にとって「いかに取引先からの要望に迅速に対応できる」が,ますます大きな課題になっている。製造や流通,小売り,サービスなど様々な分野でサプライチェーン・マネジメント(SCM)と呼ぶ手法を採用する大手企業も多く,注文に即納できなければ取引を打ち切られる心配さえある。ところがSCMとは名ばかりで,実態は中堅・中小企業に対するサービス強化といえるケースも多い。

在庫リスクを背負っても・・・

 本来のSCMは,大手企業が需要予測や出荷情報などを取引先の中堅・中小企業に流し,情報を共有することで互いの在庫を極小化することが目的だったはずだ。いわゆる「Win-Win」の関係である。それが,取引先にはほとんど情報を流さず,「受注生産」という名のもとで在庫リスクだけを中堅・中小企業に押し付けるようでは本当のSCMとはいえない。

 だが現実の問題として,多くの中堅・中小企業は大手企業からの受注を得るために,在庫リスクを背負っても従わざるを得ないだろう。それでも大手企業から安定した受注を得られるかどうかは,たとえ系列の取引先であれ実際のところ微妙である。

在庫をコントロールする

 しかし中堅・中小企業も負けてはいない。顧客からの注文には積極的に対応し,なおかつ在庫リスクを極小化しようとする会社が続々と登場している。その秘密が,在庫を積極的にコントロールしようとする「攻め」の在庫管理である(詳細は日経IT21の2002年8月号を参照)。

中堅・中小企業もSCM時代に対応した新しい在庫管理システムを

 実は今回の特集のため,多くの中堅・中小企業に取材したが,在庫管理といえば年1回の棚卸のことに過ぎない,といった会社も多かった。しょせん在庫は出荷と仕入れの「差」という結果に過ぎず,倉庫と帳簿の数量が合えばよい(実際はほとんど合わないが)といった認識しか持っていない。それが在庫をコントロール,つまり本当に管理できれば,即納と在庫削減が両立し収益拡大にもつながる。

発注の量とタイミングを算出

 たとえば,ねじ卸のサンコーインダストリー(大阪市)は,商品の補充発注の数量とタイミングをシステムで自動的に変える「不定期不定量」を実現することで在庫をコントロールしている。システム化前は約1万8000品目の商品を扱い,倉庫に在庫として保有した日数は平均で3カ月だった。それが今では14万品目を売りながら,平均2.15カ月と逆に減らせたという。同社の奥山泰弘社長はCIO(情報戦略統括役員)の肩書きまで持つだけあって,中堅・中小企業ながらIT化には熱心だ。

 一方,滋賀県近江八幡市にある和菓子の老舗,たねやは店舗の在庫を削減するため,需要予測の精度向上に力を入れた。和菓子も晴天になって気温が高いと,のど越しの良い商品が売れる。しかし雨が降れば客足は店舗から遠のいてしまう。ところがデパートやターミナル駅にある店舗は,雨が降っても人通りは変わらず影響が少ない,など立地条件と天候で様々な傾向があることがわかった。そこでたねやは,「くもりのち雨=90」など,過去の経験を基に独自の補正係数を店舗別に算出して需要予測を毎日再計算し,店舗在庫を毎日見直している。

 大手企業にとっては,こうした在庫管理は当たり前かもしれない。今まで多くの中堅・中小企業は大手企業から安定した受注を得られるため,在庫管理を怠ってきたのではという側面もある。しかしこれからは,そうはいかない。中堅・中小企業もサプライチェーン時代に対応した新しい在庫管理システムを構築すべきであろう。

(大山 繁樹=日経IT21編集)