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 開幕当初の連勝で1位に踊り出たものの,6月には8連敗を喫した阪神タイガース。順位もじりじりと下がっていき,今では3位や4位を争う位置にまで後退してしまった。まさに天国と地獄を味わった闘将・星野監督だが,今年の阪神タイガースは単なる野球の面白さだけでなく,企業におけるIT経営(ITを活用した経営)の視点で見ても,「ID野球」(データ重視)を標ぼうする野村・前監督と比較すると実に様々な教訓を秘めていると思う。

 そこで阪神ファンの1人として,誠に勝手ながら今年の阪神タイガースとIT経営,特にデータ活用との関連性を考えてみたい。

「なぜヒットになるのか」――まずはID野球の意義を教育したが・・・

 データ活用とは情報システムを使って様々なデータを収集,分析して行動を起こすことで,いわゆる「Plan,Do,See,Action」である。IT経営でも単に会社にパソコンを配布するだけでなく,社員がデータ活用することで大きな力を発揮する。

 しかし,社員の能力やセンスが問われるだけにうまくいかないことも事実。阪神タイガースの野村・前監督も就任すると,まずは自説のID野球の必要性やノウハウを選手たちに徹底して説いた。

 もちろんデータの重要性ぐらいは,どこの球団でも認識している。だが,野村・前監督が使うデータは極めて細かい点にまで及ぶという。

 例えば一般にはストライク・ゾーンを「外角高め」「内角低め」など3×3=9つのマトリクスで表現し,「どこにボールを投げると打たれるか」などと分析するが,野村・前監督の場合は「外角高め」をさらに3×3のマトリクスに分類し,合計で9×9=81のマトリクスにする。つまり同じ「外角高め」でも「外角高めの外角高め」か「外角高めの内角低め」では違うわけだ。

 さらに選手の守備位置まで考慮するなど様々な視点から,「なぜヒットになったのか」を徹底的に分析するという。そこまで細かくデータを取らないと原因が分からず対策も見えてこない,というわけだ。

「子供」にはデータ活用は無理!?

 ところが野村・前監督が選手たちに説いても,あまり反応がなかった。特にベテラン選手になると「結局,打てばいいんでしょ」といった態度だったという。「そんな難しいこと,いっぺんに言われてもわからん」と反論する選手もいるなど,データ活用の意識に乏しかった。結局,当初の勢いや期待に反し,阪神タイガースはスキャンダルなど様々な要因も重なって低迷してしまった。

 しかし星野監督が就任すると,根性と気配りの性格が選手たちのモチベーションを刺激し,データ活用とはあまり関係なく大きく波に乗ってしまった。こうした選手たちの変化を見て,野村・前監督は「私は選手たちを大人扱いしたのがいけなかった」と記者会見で語った。つまり「子供にはデータ活用という高度な戦術は無理だった」と言いたかったのだろう。

 野村・前監督の負け惜しみかもしれないが,この言葉を聞いたとき,記者にはデータ活用で失敗している企業に共通している原因のように感じられた。

勢いは長くは続かない――自らデータ活用する風土へ

 だれにとってもデータ活用は面倒な作業であり,「カンピュータ」の方が楽に決まっている。企業に勢いがあるならば,または大手のように余力があるなら,面倒な作業よりもたとえ勘であれどんどん資源を投入した方が良い場合もある。

 しかし勢いは長くは続かない。そのときになって初めてデータ活用の意義が分かってくる。頭ごなしにいきなり教えてもうまくいかない。まずはモチベーションを高めたり,成功体験を生み出すことが必要だろう。時間がかかる。じっくり,あせらずに進めたい。

 8連敗を喫した後,わが阪神タイガースは6月29日の横浜戦でようやく連敗をストップさせた。7月2日には,井川投手がヤクルト打線から13三振を奪う力投で今季4度目の完封勝利を収めた。7月3日も勝って3連勝,いよいよ完全復活である。

 連敗中,阪神タイガースのある投手は「こっちの手のうちがすっかり相手に読まれている」と言った。ライバルも攻略のためにデータ活用しているのだ。そこで阪神タイガースの選手たちは自らミーティングを開き,これまでの敗因を徹底的に話し合ったという。それが8連敗を脱出する原動力になったことは間違いない。

 まだ本格的なデータ活用とは行かないが「Plan,Do,See,Action」に一歩近づいたことは確かだろう。勝利のカギは,単なる勢いだけではなく,頭ごなしに教えられたデータ活用でもない。自らデータを活用しようという風土が選手たちに定着するならば,たとえ順位が下がったとはいえ,まだまだ阪神タイガースの前途は明るい。がんばれ,阪神タイガース!

(大山 繁樹=日経IT21編集)