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 Linuxを使おうとしたとき,まず最初に頭を悩ますのは,数あるLinuxディストリビューションの中から一体どれを選べばいいのか,ということではないだろうか。

 Linuxは,正確にはオペレーティング・システム(OS)の中核をなすカーネル部分のみを指す。カーネルが提供するのは,OSのごく基本的な機能にとどまる。そこで一般には,Linuxはカーネル単体ではなく,汎用的なOSとして即座に利用できるよう様々なライブラリやアプリケーションが付加された「Linuxディストリビューション」と呼ばれる形態で配布されている。

 このLinuxディストリビューションには,数多くの種類があり,例えば国内で広く普及しているものでは「Red Hat Linux」や「turbolinux」,「Vine Linux」などがある。

 最近,数あるLinuxディストリビューション間の違い――例えば設定方法が異なるなど――が,これからLinuxを始めようと考える人たちを戸惑わせ,Linuxに親しもうとする意欲を妨げていないだろうか,と改めて気になっている。

どのディストリビューションでもサーバーOSとして使える

 この問題を考えるようになったきっかけは,2002年6月20日に発売した日経Linuxムック「Linuxサーバー構築運用実践ガイド2002」の付録CD-ROMに収録するLinuxディストリビューションを決めなければならなかったことである。

 前述のLinuxディストリビューションの中から選ぶ場合でも,それぞれに異なる版があるので,選択肢は少なくない。例えばRed Hat Linuxには,公開されてから約半年が経過して不具合修正用のアップデート・ソフトなどがそろっている「Red Hat Linux 7.2」や,2002年5月に公開された「Red Hat Linux 7.3」,翌6月に登場したばかりの「Red Hat Linux Advanced Server2.1」などがある。

 これらの大半のLinuxディストリビューション(無償で利用できるFTP版や,パッケージ販売されている商用版のいずれにおいても)には,Webサーバー・ソフトのApacheやデータベース管理システムのPostgreSQLといったサーバー・アプリケーションが含まれている。このため,一部の特定用途向けのLinuxディストリビューションを除けば,どれを使ってもLinuxサーバー・システムを構築して,運用することが可能だ。

 このように多くのLinuxディストリビューションの用途には違いがない上,実際のところ,Linuxとしての基本構成,例えばディレクトリ構成や基本的なコマンド群などは差異がほとんどない。このため,既にLinuxを使いこなしているユーザーからは,これからLinuxを使い始める人たちに「どれでも大差はないから,適当にどれかを選んで使ってみてはどうか」というアドバイスが出されることが多い。

初めてLinuxを使う人には似て非なるもの

 とは言うものの,Linuxを使い始めたばかりの人は,Linuxディストリビューション間の違いを実際以上に大きく感じがちである。これは,選択したLinuxディストリビューションによって,設定関連のツールやコマンドが大きく異なることがあるためだ。

 例を挙げると,Red Hat Linuxとturbolinuxではインストーラが異なるし,ウインドウ・マネージャやデーモン・ソフト,ネットワーク,プリンタなどの設定を行うツールも異なる。

 さらに,Linuxディストリビューションにはじめから組み込まれている各種ソフトのバージョンが異なることも差異を感じる原因になり得る。バージョンごとにソフトの設定方法が微妙に違うことがあるし,Linuxシステムに新たなソフトを追加インストールしようとしたときにも,既にシステムに組み込まれているソフトのバージョンの違いに悩まされることが多いためだ。追加インストールするソフトを動作させるために必要になる既存ソフトのバージョンが古い場合には,追加インストールそのものができないこともある。

 こうしたことが,Linuxを使いこなそうとしたときの障害になっているとしたら残念だ。Linux関連の書籍やインターネットのWeb検索サイトを通して入手したLinuxを使いこなすための情報が,ある特定のケース,つまり使用しているLinuxディストリビューションやソフトのバージョンに依存しており,手元のLinuxシステムに通用しないことが,Linuxに対する関心やシステムを構築する意欲を低下させている場合が結構あるのではないだろうか。

普遍的な情報とディストリビューション固有の情報のバランスに配慮したい

 「Linuxサーバー構築運用実践ガイド2002」は,既にLinuxを搭載したサーバー・システム(以下,Linuxシステム)を構築した方だけでなく,これから(初めて)Linuxシステムを構築する方や,これまでにLinuxを試用した経験を持っており今後より本格的なシステムを構築して運用しようとしている方も対象としている。

 これからLinuxを使ってみようと思っている人なら,Linuxディストリビューションが複数種類あるのだから,それらの中から,安定して動作し,かつなるべく普遍的なLinuxの使い方を効率よく会得できるものを選択したいと思うのが自然だろう。結局,ムックの付録CD-ROMには,Red Hat Linux 7.2での稼働実績が反映され,今後多くのサーバー関連のソフトが対応する見込みの「Red Hat Linux Advanced Server2.1特別評価版」を選んで収録した。

 一方,記事の編集にあたっては,初心者の方がディストリビューションの違いで悩まないように心がけた。具体的には,多くのLinuxディストリビューションに当てはまるような普遍的な情報と,付録CD-ROMに収録したLinuxディストリビューション固有の情報の両方を記述するようにした。

 Linuxディストリビューション固有の情報にはそれを明記し,日経Linuxの過去の記事を再掲載した一部のムックの記事では,付録CD-ROMに収録したLinuxディストリビューションで通用するかどうかを検証し,通用しなかったものについては内容を改めた。だが,それでもムックの記事がそのまま当てはまらないLinuxディストリビューションは必ずあるだろう。

 そもそもLinuxディストリビューションごとの違いが存在するのは,各Linuxディストリビュータが独自ディストリビューションの特徴を打ち出すべく使い勝手や機能の向上を盛り込んだ結果である。先に紹介したLinuxを使いこなしているユーザーからのアドバイスにしても,言外に「Linuxを使い始める前からあれこれ迷うよりも,特定のLinuxディストリビューションを使い込むうちに,“いずれ”はその他のLinuxディストリビューションとの違いが見えてくる」ことがほのめかされている場合が多いだろう。

 ただし,特に実務でLinuxとかかわる場合には,“いずれ”ではなく“できる限り早く”Linuxを使いこなせるようになりたいという要望が多いはずだ。一筋縄では行かない問題ではあるが,今後の日経Linuxの誌面上においても,より多くのLinuxディストリビューションに当てはまるような普遍的な情報と,個別のLinuxディストリビューション特有の情報をバランス良く盛り込むよう心がけたい。

(田島 篤=日経Linux編集)