掛け声ばかりが先行し,実体は伴っていない――。政府は「e-Japan推進計画」で2003年度までに行政の電子化を進めることを大きな柱の一つとして掲げている。しかし,日経コミュニケーションが,全国の市区町村に対して電子化推進や高速インターネット整備に関するアンケートを行ったところ,市町村レベルの電子化はほとんど進んでいないという実態が明らかになった(詳しくは日経コミュニケーション11月18日号特集「電子政府の主役,いまだ舞台に上がらず」を参照)。

 「電子自治体フォーラム」を主宰し,自治体の電子化を後押しする立場にある日本総合研究所創発戦略センターの井熊均所長も「e-Japanの目標を達成する見込みはない」と断言し,「自治体の電子化は悪い意味で公共事業化している」と批判する。

町村の3割は情報化への投資金額は年間100万円以下

 日本の市町村の数は3218。少なくとも住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)に関しては,ほとんどすべての自治体が,その整備を進めた。総合行政ネットワーク(LGWAN)や電子入札など,e-Japanで掲げられたさまざまな行政の電子化に伴い,今後も3200個の顧客があるとベンダーが期待して群がる,というのが現在の構図である。

 しかし,アンケートによると,約3割の自治体では,年間の情報化投資金額は100万円以下。この金額では新たなシステム構築はもとより,作ったシステムの維持費を捻出することさえ容易ではない。ベンダーも,電子申請システムやLGWAN用の文書管理システムなど,さまざまな製品を用意するものの,実際の商談はほとんど進んでいないと言う。

必要なのは電子化ではなく構造改革

 日本総研の井熊所長は,米国やオーストラリアなどにおける行政の情報化は,構造改革から10年前後経ってから始まっていると指摘する。日本は構造改革と同時,あるいは情報化が先行するという,やや異常な事態に陥っている。

 例えば,現在市町村の合併計画が進行中である。与党によると自治体の数を1000個にまで減らすのが目標である。2005年3月31日までに合併した場合,合併特例法によってさまざまな便宜が図られることになっている。

 約2000の市町村がなくなる,というのが現実的かどうかは別にして,すでに181地域,810市町村が合併重点支援地域に指定され,合併を検討している。今電子化を進めても,合併によってシステムは新たに作りなおしになる可能性が高い。むしろ合併の一部として各種手続きの見直しや電子化を進めていくべきであろう。しかし,アンケートからはそういった合併をにらんだ動きはほとんど出てこなかった。

 電子化で先行する自治体も,必ずしもすべての自治体が同じように電子化する必要があるとは考えていない。

 例えば,電子化推進で有名な横須賀市。同市は電子入札をいち早く導入し,年間数十億円落札価格を下げることに成功した。しかし,企画調整部情報政策課の森山武総括主幹は「必ずしもすべての自治体が電子入札を導入する必要はない」と言う。同市の電子入札は入札制度改革に伴って事務作業の軽減のために導入したものであり,肝心なのは電子入札ではなく入札制度の改革だったのである。

メリットを明らかにしないと結局しっぺ返しを受ける

 全国の市区町村と都道府県,中央官庁を専用のネットワークでつなぐLGWANについても,何に使うのかはっきりしないという声が多い。2003年度末までにすべての市町村が接続するとe-Japan推進計画で明記されているにもかかわらず,アンケートでは約2割の市区町村が接続を2004年度以降に先延ばししたり,態度を保留している。

 また,6割以上の自治体は2003年度の接続を考えており,総務省も「このままでは期限に間に合わない市区町村が多数に上る」と遅れを認める。

 総務省は通達などを電子メールで送ることや,文書の回覧機能などでペーパーレスを実現できるとしているが,それだけのために接続したいと思う市町村はさほど多くないだろう。LGWAN上でASPによってさまざまな電子化のアプリケーションを提供するLGWAN-ASPも検討中だが,これも前述のように構造改革を伴わずにどこまで有効かは分からない。

 2003年度までに接続すると機器購入費を8割国が負担するという「アメ」で何とか接続を推進しようという総務省だが,後のメリットを納得させずに接続することだけを目的とするのではいかにも本末転倒である。

 自治体の電子化は何のために行うのか。システムの構築が税金を使って行われる以上,厳しく問われなければいけない。

(松原 敦=日経コミュニケーション)